勘違い26個 ページ29
周りの非難の目も気に止まらないくらい彼は速く走った。
本部を抜け、少し離れた森の茂みに入ると彼は切羽詰まった顔で素早く私を掻き抱いた。
自分の胸に閉じ込めるような抱きしめられ方をしたので身長の低い私はちょうど彼の心臓の所に顔が来て、心音が直に伝わってくる。
「…ねぇ、あれ、なに。」
彼は震える声で口を開いた。彼の心臓は鬼の攻撃を間一髪で避けた時みたいな嫌な動き方をしている。
「Aちゃん、ずっとあんな悪意に晒されてきたの…?嘘でしょ……?あんな酷い、こんなことってある…?」
彼の尋常ではない様子を見て私はやっと察した。
彼は私と違って人の心の音すら聞き取る。きっと身が軋むようなその«悪意の音»は彼の耳にはひどく耳障りだったのだろう。
「あいつらどうかしてるよ…根も葉もない噂を信じて、Aちゃんのこと笑って、関係の無いことすら引っ張り出してきて…あいつらの方がよっぽど鬼みたいだ……」
そう言って彼は顔面蒼白のまま私を更にきつく抱きしめる。私には彼がどんな気持ちで抱きしめているのかわからなかった。
私は俯いたまま、小さなか細い声で『私の態度が悪いのも、腕力がないのも事実なので。』と自らに言い聞かせるように言った。
「……じゃあ枕営業してるのは本当?努力してないって本当?」
彼のその問いに私は全力で否定した。
やめて、貴方にだけはそうだと思われたくない!!!!
『違う!私は柱のとある人物と義兄妹で仲がいいだけで、今の階級にだって筋力は無くても呼吸の力で底上げして自分で鬼を斬って上がってきた!!』
涙がぽろぽろと頬を伝って滑り落ちる。
お願い。お願い。どうか信じて。
私、嘘なんかついてない。
「じゃあ!!!Aちゃんは反論していいんだよ!!それは違うって言っていいんだ!きみがそんな事しないだなんて俺は百も承知だよ!!」
彼は私の両肩を掴んで少しだけ体と体の間を開けて、私の目を真っ直ぐ見つめた。
……このひと、善逸くん。
最初から私のことを微塵も疑ってない。
ずっと、あの飛び交う噂話の中でただの一度も疑ってない。
彼の瞳は千の言葉よりも雄弁だった。
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エナ(プロフ) - 腹黒やばないがツボった (2019年9月15日 12時) (レス) id: 11aae5328b (このIDを非表示/違反報告)
さんまるてぃん(プロフ) - アリアナさん» お返事遅れてすみません!時透くんですね、了解です! (2019年9月4日 15時) (レス) id: c51e84ebb6 (このIDを非表示/違反報告)
アリアナ - もし良ければ番外編とかで時透くんとの絡みがあったらうれしいです。 (2019年9月2日 22時) (レス) id: 99796aaed6 (このIDを非表示/違反報告)
さんまるてぃん(プロフ) - 無気力みかんさん» 乙音ちゃん良いですよね…ツンデレの師として崇めてます (2019年8月27日 20時) (レス) id: c51e84ebb6 (このIDを非表示/違反報告)
無気力みかん(プロフ) - お、乙音ちゃんみたいだ………萌え (2019年8月26日 18時) (レス) id: d571eebd63 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:さんまるてぃん | 作成日時:2019年8月19日 13時