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8話 ページ9

私と荒木田さんは会議室で隣合って座り話し始める

十数分後荒木田さんに資料内容を一通り説明したところで一息ついていた

「大まかな内容は以上ですが、何か確認はありますか」

資料を荒木田さんへ手渡しながら問いかける

「ああ、ここの…」
「どこですか?ああ、これはですね……」

荒木田さんの手元を覗き込む為前屈みになると、ほんの少し肩が触れた

何回かの質疑応答を繰り返した後、それ以上確認はないのか荒木田さんのペンが止まる

「細かい所まで悪い。助かる(てか距離が近けー…)」

「大丈夫です。むしろとても丁寧にお仕事されていて素敵だと思います」

その言葉に荒木田さんが顔をあげ、今日初めて目が合う
宝石のように綺麗で真っ直ぐな瞳だと思った

「そういえば、荒木田さんは本がお好きなんですか?」

デスクに散らばった自分の書類を片付けながらちょっとした雑談をふる

「…は?あ、ああ」

瞳に困惑の色が滲む

「あっ、すみません。荒木田さんから紙とインクの匂いがしたので、本がお好きなのかなぁと思って」

「……匂い」

私の言葉を聞いて、荒木田さんは自身の身体を嗅ぎ始めた
腕や襟元を嗅ぎ回るその姿は大型犬を彷彿とさせる

(顔は少し厳ついけど、素直で可愛い人だなぁ)

「私も本好きなんですけど、最近は読んでる時間があまりなくて…短編集でオススメがあったら今度教えてください」

会議室を出ようと立ち上がりながら、相変わらず放心している荒木田さんを見つめる
立ち上がった私に驚いたのか、荒木田さんは咄嗟に私の手首を掴んだ

「えっと…」

困惑する私を見て荒木田さんは頬を赤らめる
視線を彷徨わせ口ごもっているが、それでも腕は離さない

やがて、意を決したように力強く立ち上がり口を開く

「あの、俺ので良ければ貸すから……その…感想とか、聞きたい」

たどたどしく紡がれた言葉はきっと
彼のありったけの勇気なのだろう

「いいんですか?ありがとうございます。是非よろしくお願いします」

私の言葉に荒木田さんは嬉しそうに頷く
もし彼に尻尾がついていたら、今ちぎれんばかりに振り回しているのだろう
それを想像すると少し可笑しくなる

「それじゃあ、行きましょうか」

デスクの上を片付け、私達は捜査一課へと歩き出す

その後、青山さんの元へ戻り
捜査一課の面々へ簡単な挨拶をして警視庁を後にした

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作者名:さのすけ | 作成日時:2022年5月29日 20時

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