それでは、また明日(緑)

06 緑side ページ6

どこにでもいるお局予備軍タイプ、それがAさんの第一印象やってんな。


自分のやり方を曲げなくて
人の意見聞かんくて
下手に勤務歴が長いから
誰も何もよう言わんような。


残業あかんゆうのに
タイムカード切ってから残ったり
意思疎通してへんのに
勝手にパートさんの予定表作ったり。

いくら俺が年下やからってゆっても役職は上。

ガツンとゆうて従ってもらわなあかんねん。




まあ、予想通り。

ガンガンに凹んで大人しくなった。

ほしたら大きなミスして
会社辞めてまうんちゃう？ってぐらい落ち込んでたから。



励ますつもりで。
ちょっと上司ヅラ噛ますつもりで
呑みに誘った。



『課長ぉ、次何呑みますかぁ？』



呑み始めて1時間も経たへんうちに
Aさんの態度が変わっとった。


「…あの、呑み過ぎちゃいますか？」

『そんなことないですよおぉー、まだまだいけますよぉ』


頬がピンクにほんのり染まり
やけにニコニコしては
語尾は甘ったるくて。


まとめていた髪の毛を解いた時
全くの別人に見えた。


『これ！オススメ！理系兄弟！』


どん、と机を叩いて
日本酒リストを俺に見せる。



『お母さんの後を継いだ薬剤師の兄と、遺伝子レベルで免疫を研究していた杜氏の弟という、日本一理系な兄弟蔵元が、綿密な酒質設計をもとに造った究極の食中酒と言われてるんですよぉ』


「凄いですね…」



『淡麗辛口なんで課長好きですよぉ、たぶん』



「お酒好きなんですね」



『まあ、呑むぐらいしか楽しみないですしぃー』



きっとAさんはお酒強い方やと思うねん。
やけど、俺は相当強いから
このペースに呑まれてもうたんやろうな、と少し反省。



理系兄弟。
それは確かに辛口で
スッと舌と喉を通り
胃の中で食べ物と混ざっても心地良い。


「美味いすね、これ」



『でしょぉーーー？』



またAさんは
お酒のリストを眺めて
今度はこれ！と俺に勧めてきた。




『亀の井酒造さんの”くどき上手”です！』




「えっ」




少しドキッとしたん気のせい？

なんちゅー酒のネーミング。

体温が少し上がった俺はメガネを外しておしぼりで顔を拭いた。




『うわ、課長メガネ無い方がイケメンじゃないですかぁーー』



「えっ」



『なんでメガネしてるの？勿体なーい』



向かって左斜め45度。

コテン、と漫画ならそう表現される。


そんな角度で言われたら。




そりゃ落ちるよな、俺。

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