第45話 ページ5
【黒霧Side】
泣いていた。
彼女が、椛さんが泣いているのを見るのは初めてだった。
それこそ、敵連合に囚われてから一度も見てないのに、だ。
本来ならば、敵連合に来た時点で普通の人なら泣き出すのかもしれないのに、椛さんは泣かなかった。
むしろ、あの死柄木弔と公平に、普通に、旧知の友のように話していた。
当たり前のように話し、触れ、笑っていた。
なぜかは分からない。
それが椛さんの強さだと思っていた。
そしてそれが、死柄木弔の何かを溶かしていると思っていた。
最近、死柄木弔の表情が柔らかくなった。
ほんの少しだけ、ふとした時に笑うようになった。
全部、椛さんが来てからの変化だった。
『おい。今日椛を監 禁部屋に連れて行くぞ』
だからこそ、早朝に告げられたその言葉に酷く驚いた。
『…はい？』
『準備しておけ』
早朝にそれだけ言うと、死柄木弔は私の方を見ることなくカウンターを離れていく。
『死柄木弔っ！一体、どういう…』
『椛には言うなよ』
『…っ！』
わずかに。
ほんのわずかに殺気を含んだ声を向けられた。
初めて会った時は警戒心から、しょっちゅう向けられていたそれだが、最近は全く向けられなくなっていた。
だからこそ、一瞬体が動かなくなった。
率直に言うと『怖かった』。
自分に向けられた殺意に怯えて、死柄木弔の言う通りにしてしまった。
私は、椛さんに何も告げることなくゲートを開いた。
「椛さん…」
そんなことをしておいて心が痛むなんて。
椛さんの涙を見て心が痛むなんて。
「敵連合、失格ですね…」
誰もいないバーにそう呟いた。
自分にも、ある程度心があると思ってしまう。
死柄木弔だけじゃなく、私も椛さんに何かを溶かされてしまったのかもしれない。
いつだって思い出す椛さんの顔は笑顔だった。
ご飯を美味しそうに食べる時も、死柄木弔と私の名前を呼ぶ時も。
だから、あの笑顔を守らなければならないと思ってしまった。
「どうか、椛さんが笑顔で、幸せに生きれますように…」
それだけ願って、私はカウンターの照明を消した。
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暁稀 - これこそ純愛。YES純愛。黒霧さんイケメン過ぎて禿げました、どうしてくれるんですかありがとうございます！ (2021年8月13日 3時) (
レス) id: 5c3eb28485 (このIDを非表示/違反報告)
りん(プロフ) - 最高すぎます！！ (2019年12月29日 2時) (レス) id: a8dea294c9 (このIDを非表示/違反報告)
budou(プロフ) - やばすぎた。読んでるだけやのに幸せ... (2019年10月13日 7時) (レス) id: bca9c6f33f (このIDを非表示/違反報告)
チイナ(プロフ) - もう号泣でした。涙がぽろぽろ溢れ出てきて、あーいい作品に出会ったなぁ、と感じました。私の大好きな作品に追加です！このような作品をお作りいただきありがとうごさいます！また読み返しに来ます。 (2019年7月15日 8時) (レス) id: f759a37db1 (このIDを非表示/違反報告)
琴(プロフ) - はじめまして。何度も何度も読み返してその度に感動させられて、こんな小説久々に読みました！！また読みに来ます！この作品に巡り合えて幸せです。本当にありがとうございます！ (2019年2月9日 21時) (レス) id: f1af7a443b (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：うすしおタルト | 作成日時：2018年8月26日 19時
