第44話 ページ4
淡白な部屋に響いた優しい声に、涙を拭くこともせず振り返ると、トレイに食事を乗せた黒霧さんが立っていた。
「黒霧さん…」
「…泣いて、いたのですか？」
「…っ」
私が言葉に詰まると、黒霧さんは姿勢を低くして視線を合わせてくれた。
「すみません…」
「…いえ」
会話が、ない。
まあ、こんな状況で饒舌になれるほど、私も黒霧さんもバカじゃない。
この沈黙をどうにかしようと口を開きかけると、低い声が鼓膜に響いた。
「おい黒霧。早くしろ」
「…はい」
「弔…」
黒霧さんのうしろから弔が顔を覗かせた。
顔についていた手が外され、不機嫌そうな顔が際立って見えた。
「……」
私と目が合うと、心底不機嫌そうに弔が視線を逸らす。
────ズキン。
なぜか、心臓が傷んだ。
わからない。
こんな痛みは、知らない。
「三十分ほどしたら食器を下げに来ます」
「…はい」
「では…」
「おい」
黒霧さんが室内から去ろうとすると、ずしんと思い声が室内に響く。
声に重みはないはずなのに、体が重くなった気がした。
一歩、また一歩と弔が近づく。
手を伸ばせば触れれる距離。
その距離になった時、弔が足を止めた。
どうして？
視線が合っただけで心臓が踊るのはどうして？
「俺は…」
乾燥で割れた唇を弔が開く。
「もうここには来ない」
「…え？」
頭を鈍器で殴られた感覚。
え？弔、今何て、
「当たり前だろ。たかが女一人のために敵連合の長がわざわざ足を運ぶか、バーカ」
「え、…うそ、え？」
「こんなところで嘘ついてどうすんだよ」
ガリガリと。
ガリガリと弔が首を掻く。
血が出そうなくらいに。
「鬱陶しいなその顔。反吐が出そうだ」
弔は、吐き捨てるようにそれだけ言った。
「じゃあな」
またそれだけ言って弔はゲートの向こうに消えていく。
弔と黒霧さんの姿が見えなくなるまで、私は動くことが出来なかった。
ああ、バカだ。
本当は敵連合に来た時点で無理にでも帰るべきだったんだ。
流されて一緒に暮らすんじゃなかった。
学校に通わせてもらえる時点で助けを求めるべきだったんだ。
そうすれば、こんな悲しい思いをしなくて済んだんだ。
悲しいとか、虚しいとか、苦しいとか。
できるなら戻りたい。
なんなのかよく分からない大きな感情に支配される前に。
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暁稀 - これこそ純愛。YES純愛。黒霧さんイケメン過ぎて禿げました、どうしてくれるんですかありがとうございます！ (2021年8月13日 3時) (
レス) id: 5c3eb28485 (このIDを非表示/違反報告)
りん(プロフ) - 最高すぎます！！ (2019年12月29日 2時) (レス) id: a8dea294c9 (このIDを非表示/違反報告)
budou(プロフ) - やばすぎた。読んでるだけやのに幸せ... (2019年10月13日 7時) (レス) id: bca9c6f33f (このIDを非表示/違反報告)
チイナ(プロフ) - もう号泣でした。涙がぽろぽろ溢れ出てきて、あーいい作品に出会ったなぁ、と感じました。私の大好きな作品に追加です！このような作品をお作りいただきありがとうごさいます！また読み返しに来ます。 (2019年7月15日 8時) (レス) id: f759a37db1 (このIDを非表示/違反報告)
琴(プロフ) - はじめまして。何度も何度も読み返してその度に感動させられて、こんな小説久々に読みました！！また読みに来ます！この作品に巡り合えて幸せです。本当にありがとうございます！ (2019年2月9日 21時) (レス) id: f1af7a443b (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：うすしおタルト | 作成日時：2018年8月26日 19時
