第56話 ページ16
パキッ、パキン。
お酒の瓶の破片が割れる乾いた音がバーに響く。
「…っ！椛さん！？」
その中に広がった切羽詰まった声に振り向くと、
「く、黒霧さん…」
なぜか怪我をして、倒れ込んでいる黒霧さんが居る。
バーテンダーの服はボロボロに破け、所々から血が滲み出ている。
もう立ち上がることすら出来ないらしい黒霧さんは、せめてもの力を腕に込めながら私に叫ぶ。
「なぜ戻ってきてしまったんですかっ！？椛さん、貴方は…っ！」
「うるせえよ」
ずしん、と重い声が黒霧さんの声に重なる。
『あれ？声が近い』なんて、のんきなことを考えながら振り向くと、随分と近い位置に弔が立っていた。
「…っ！」
殺気。
私に向けられた殺気。
一瞬で足がすくむ。
「あ…」
唇が震えて言葉が出てこない。
聞かなきゃいけないのに。
『あの部屋が壊れてたのは何で？』
『バーが荒らされてるのは何で？』
『黒霧さんが傷だらけなのは何で？』
「と、弔…」
『悲しそうな目をするのはどうして？』
「……」
弔は黙ったまま、どこか悲しさに濡れた瞳に私を映す。
綺麗なスペサタイト色の瞳が濁ってて、私も泣きそうになる。
涙が溢れてしまわないように唇をきつく結んでしまう。
言わなきゃいけないのに。
『好きだよ』って。
「…あ、あのね」
「何でだよ…」
「…え」
『話そう』と力を入れてやっと放った言葉は弔に掻き消された。
あ、久しぶりだ弔の声。
そう思うが刹那、首に弔の手が添えられる。
「何で戻ってきたんだよ…っ」
ぐっ、と手に力が込められる。
「…かは…っ」
弔の個性が効かないとは言え、自分より力の強い男性になんて適うはずがなくて、私の喉は軋み始める。
視界がぼんやりと霞んだ。
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 637人がお気に入り
お気に入り作者に追加
この作品を見ている人にオススメ
この作品を見ている人にオススメ
「ヒロアカ」関連の作品
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
暁稀 - これこそ純愛。YES純愛。黒霧さんイケメン過ぎて禿げました、どうしてくれるんですかありがとうございます！ (2021年8月13日 3時) (
レス) id: 5c3eb28485 (このIDを非表示/違反報告)
りん(プロフ) - 最高すぎます！！ (2019年12月29日 2時) (レス) id: a8dea294c9 (このIDを非表示/違反報告)
budou(プロフ) - やばすぎた。読んでるだけやのに幸せ... (2019年10月13日 7時) (レス) id: bca9c6f33f (このIDを非表示/違反報告)
チイナ(プロフ) - もう号泣でした。涙がぽろぽろ溢れ出てきて、あーいい作品に出会ったなぁ、と感じました。私の大好きな作品に追加です！このような作品をお作りいただきありがとうごさいます！また読み返しに来ます。 (2019年7月15日 8時) (レス) id: f759a37db1 (このIDを非表示/違反報告)
琴(プロフ) - はじめまして。何度も何度も読み返してその度に感動させられて、こんな小説久々に読みました！！また読みに来ます！この作品に巡り合えて幸せです。本当にありがとうございます！ (2019年2月9日 21時) (レス) id: f1af7a443b (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：うすしおタルト | 作成日時：2018年8月26日 19時
