第54話 ページ14
「行ってきなよ、椛」
出久が私を腕の中から解放してそう言う。
「全力で止めるんじゃなかったの？」
「さすがに幼なじみの恋路を邪魔するほど、野暮じゃないよ」
私がそう返すと、出久は呆れたように首を傾げてそう言った。
いつも通り。
何も変わらない。
「そっか」
「…うん」
お互いの短い返事のあとに、少しの静寂を置いて口を開く。
「行ってきます」
「行ってらっしゃい」
それだけ言って出久に背中を向ける。
早く行かなきゃ。
行って弔に言わなきゃ。
フラれようが、拒絶されようが構わない。
弔の顔を無理矢理こっちに向けてでも『好き』って言うんだ。
この気持ちに蓋をするなんて出来ないから。
「出久、助けてくれてありがとう」
「…うん」
「でも、ごめん。私は…」
「早く行きなよ、椛」
「………うん」
優しく背中を押す出久の体温を感じながらドアを開けると、泣きそうな顔で抱き着く出久のお母さんと、テレビが目に映った。
そこに映し出された文字。
『廃工場崩落』
『敵連合の影あり？』
泣きそうなおばさんを軽くなだめて、テレビに映った文字をまじまじと見てしまう。
画面に映し出されたのは、どこかで見たことのある廃工場と、壁一面だけが壊れた建物。
「ここ…」
あの灰色の部屋から見えた廃工場だ。
じゃあ、あの壊れた建物は────。
『今、崩れた建物から人が見えました！二人居ます！…何か言い争いをしているように見えますが…』
ニュースキャスターがわずかに声を荒らげて喋る。
「…弔だ」
小さくしか映っていないけれど、たしかに弔だ。
黒霧さんも居る。
テレビの向こうで、狂ったように暴れる弔を黒霧さんがなだめているのが分かる。
その瞬間、黒いゲートが黒霧さんの近くに開かれ、二人の姿が消えた。
帰ったんだ、あのバーに。
「おばさんごめんなさい！お邪魔しました…っ」
「ええっ！椛ちゃん！？」
驚いているおばさんの声を背に、玄関へ向かう。
今弔に何があったのか知りたい。
どうしてあの部屋が壊れていたのか知りたい。
ねえ、弔。
私に、弔を知ることは出来る？
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暁稀 - これこそ純愛。YES純愛。黒霧さんイケメン過ぎて禿げました、どうしてくれるんですかありがとうございます！ (2021年8月13日 3時) (
レス) id: 5c3eb28485 (このIDを非表示/違反報告)
りん(プロフ) - 最高すぎます！！ (2019年12月29日 2時) (レス) id: a8dea294c9 (このIDを非表示/違反報告)
budou(プロフ) - やばすぎた。読んでるだけやのに幸せ... (2019年10月13日 7時) (レス) id: bca9c6f33f (このIDを非表示/違反報告)
チイナ(プロフ) - もう号泣でした。涙がぽろぽろ溢れ出てきて、あーいい作品に出会ったなぁ、と感じました。私の大好きな作品に追加です！このような作品をお作りいただきありがとうごさいます！また読み返しに来ます。 (2019年7月15日 8時) (レス) id: f759a37db1 (このIDを非表示/違反報告)
琴(プロフ) - はじめまして。何度も何度も読み返してその度に感動させられて、こんな小説久々に読みました！！また読みに来ます！この作品に巡り合えて幸せです。本当にありがとうございます！ (2019年2月9日 21時) (レス) id: f1af7a443b (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：うすしおタルト | 作成日時：2018年8月26日 19時
