6-19 ページ19
「…感情が麻痺していた私を、先生は救ってくれました。
お兄ちゃんが死んでから私は屍同然で。
全てがどうでもよくて、毎日を淡々と、消化するように生きていました。
感情に、意味なんてないって思ってました。
でも先生と出会って、
先生に褒められて、嬉しいって思った。
先生とデッサンの練習をしていて、楽しいって思った。
先生のことを好きだと気づいて、幸せだと思えた。
先生に振られて、悲しいと思った。
その全てに、意味があるって思えるんです。
…先生と出会ってなかったら、私はきっと、感情が麻痺したまま、今も他人の痛みに無頓着でいたんだと思います。
錆びついていた私の心を、先生が動かしてくれたんです」
軽く息を吸い込む。
初めに告白した時と同じくらい緊張した。
「私、やっぱり先生が好きです。
教師だろうが余命僅かだろうが、好きなことをやめるなんてできません。
最後まで、好きでいさせて下さい」
先生は、眉を下げて「そうか」と言った。「迷惑だ」と拒絶しはしなかった。
何故だろう、とても淋しそうな、悲しそうな顔をしていて、私には先生が何を想っているのか推し測ることができなかった。
「じゃあ、さようなら。また明日」
そう言って、ドアノブに手を伸ばした。
その手を掴まれた。
先生が、私の手を掴んでいた。
驚いて振り返ると、目が合った。
眼鏡の奥の瞳が、微かに震えた気がした。
そのまま手を引かれ、先生の元へ引き寄せられる。
「せんせ…」
その先は続かなかった。
言葉を封じるように、先生の唇が触れていた。
◆◇◆◇◆◇
296人がお気に入り
この作品を見ている人にオススメ
「オリジナル」関連の作品
感想を書こう!(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
理音(プロフ) - 続き気になります!更新楽しみにしています!応援してます!! (2022年8月16日 0時) (レス) id: d2e2ccbd11 (このIDを非表示/違反報告)
7star(プロフ) - 初めまして!読み進めるほどドキドキして胸がギュッと締め付けられます。作者様のペースで更新されるのを楽しみに待ってます! (2020年7月15日 21時) (レス) id: f3e580ba40 (このIDを非表示/違反報告)
まろん(プロフ) - 読んでて切なくてきゅんきゅんしてます!何度も何度も読み返してます!更新楽しみにしています!頑張って下さい、応援しています! (2019年6月2日 14時) (レス) id: 2af5865e58 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名:さな×りお | 作成日時:2019年5月11日 0時