アシャ ［ヒロアカ］

壊されたピン ページ39

真っ二つに切られたネクタイのピンを受けとる。その持ち主であるAは職員室から出ると待っていたであろう常闇と一緒に帰っていった｡

「……あの人、ついに壊しやがったな」

　相澤は一人つぶやく｡

　まあいつかはやると思っていたが｡

　元々、こういうまわりくどいやり方を好まない人だった。模型のピンを持って家庭訪問に行ったら握りつぶされたのは記憶に新しい｡

　先生ならどうやってAをなじませるだろうか｡

　転校してきてずいぶんたったが、話しかけにくるのは常闇しかいない。最初の頃とは大違いだ｡

　他の奴らは関わらないように距離をおいている。決してAは根暗ではなく、どちらかというと明るく友達思いだ｡

　衝突するより穏便に済ませる方向か｡

　このままいっても平行線だ。良い奴らゆえにAを傷つけずにあいまいな避け方をしている｡

　だが衝突させたとしても分かり合えるかどうか……特に爆豪が起爆スイッチになりかねない｡


　──先生は生徒を守るためにいるんだ｡


　かつてあの人が発した言葉だ。「育てるため」と言わないところがあの人らしい｡

　言葉通りだとAを守るなら、衝突を起こさず、波を作らないことが一番だが、そんな意味ではないことぐらい分かる｡

　あの人は俺たちの未来を守ってくれた｡

　ヴィランからの襲撃。先生は強かった。何もできなかった俺たちの壁になった｡

　……できそこないの命とひきかえに足を失い、教員もやめさせられた｡

　足を自由に動かせないと生徒を守れない、学校側はそう表に公表したが、実際は方針に合わないための排除だとこの歳になって薄々感づき始めた｡

　それだけ先生の教育はぶっとんでいた。今思いだしても吐きそうなくらいハードで……とても合理的だった。無駄なことは一つもなく、今俺たちの命があるのはそのお陰だ｡

　先生は生徒の未来を守るためにいる。たとえ自分が傷を負っても、周りから批判を浴びせられても、

　──最善の道を選ぶってのが筋ってもんよ｡

　先生の声が聞こえたような気がした｡

　今のままではだめだ。Aの未来を守るどころか障害者の未来すら変えられない。今を守るだけではだめなのだ｡

　だが何も思いつかない。あの先生ならどうするだろうか……｡

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