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目の前を歩く炭治郎が、一言も発してくれない。
目の前で揺れる赤い髪と、後ろからでも覗く髪飾り。その背中が、いつもよりも荒く逆立っているような感覚がして、思わず「炭治郎」とその名前を呼んだ。思ったよりも、不安そうな声になってしまった。
「ねぇ、炭治郎......怒ってる?」
何に対して怒っているのか、そもそも何故私を連れ出したのか。何もわからない。最近、炭治郎のすることも言うことも分からないことだらけだ。
違う匂いを付けに行こうと言われたが、何故炭治郎がそんなことを言うんだ。今の私の匂いが嫌いなのだろうか。とくべつ何か香りのするものを纏っているつもりはないが、鼻の敏感な炭治郎なら何か思うところがあるのかもしれない。
私が掛けた言葉に、炭治郎はふと足を止めた。手は、放されないままだった。繋がれた手から、炭治郎の心の中が分かれば良かったのに。
「......すまない」
「え?......どうして謝るの」
別に何も炭治郎は悪いことをしていない。あの場から連れ出されたことだって、なんとも思っていない。この前のことだろうか。それとも、また何か別のことだろうか。
分からなくて、困る。こんなに人の気持ちが分からなくて困ったことは無い。元来、今目の前の人が持っている感情の種類がたいてい分かるので、その都度それに対する対応していればなんとか生きてこられたが、こればっかりは分からない。
炭治郎が、こちらを振り返った。本当に申し訳なさそうな顔をしていた。けれど、まだぴりぴりとしたものが残っているから、怒りは彼から未だに消えていない。いや、これは怒りなのだろうか?また違う種類の感情である気がする。もっと、もっと複雑な......
「謝っているのは、本当に、色々なことに対してだ。最近俺は、Aに対してとても、強引だったから......」
「それは、思ってたけど」
「本当にすまない。けど、今だって怒ってる訳じゃないんだ。ただ......」
「......ただ、なに?」
繋いでいる手の力が、少しだけ強くなる。
「......Aから善逸と同じ匂いがして、すごくもやもやした。伊之助が言うようなことをしていないのは、分かってる。でも、それでも、嫌だったんだ」
同じ匂いがするから、嫌?どういうことだろう。このぴりついた炭治郎の空気がやっぱり分からなくて、微妙な顔をしてしまう。
「本当に、俺は最近、駄目だ。Aを困らせてばかりだ。ごめん、A。この間も、困らせてしまって......」
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さざんか(プロフ) - 外で思いだすだけでキュンキュンして泣きそうになります…素敵な作品をありがとうございます!新作アンケも失礼しました…! (2020年11月14日 0時) (レス) id: 20c7caba78 (このIDを非表示/違反報告)
碧 - 久しぶりに心から焦がれる素晴らしい作品に出会えて嬉しいです^ - ^本格的に冷え込む季節となりましたので、体調にはお気をつけてお過ごし下さいませ.更新を心待ちにしております (2020年11月13日 0時) (レス) id: e9e3f41ae9 (このIDを非表示/違反報告)
花帆 - 初めまして、めっちゃ面白いです!!すごくキュンとしますっ/// 炭治郎の態度の急変…切ないです(泣)続き気になりすぎます…!!続編も全集中で拝読したいです(*^▽^)/★*☆♪応援しております!! (2020年11月11日 2時) (レス) id: aa0adc990d (このIDを非表示/違反報告)
楓 - 更新大変だと思いますが、とても楽しみにしています。これからも応援していますね。新作アンケート…冨岡さん好きなので、お願いしたいです。 (2020年11月7日 6時) (レス) id: 91f917202d (このIDを非表示/違反報告)
しろ(プロフ) - 久々にドキドキする話でした、、続き楽しみです! (2020年11月6日 20時) (レス) id: f83c25335c (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:子@さぶ | 作者ホームページ:http://uranai.nosv.org/u.php/hp/8ef4f72c271/
作成日時:2020年10月24日 12時