プロローグ ページ2
いつでも清く正しくありなさい。学友への挨拶はごきげんようと言いなさい。先生や講師、親戚以外の異性とはなるべく話してはいけません。下等な娯楽は必要ありません。貴方に必要なのはペンと、机と、紙と、本だけなのです。
昔からそう言われて育てられてきた。親は教師と公務員で、母は教師を既に退職しており専業主婦となっているが、その生真面目さや潔癖なところはひとつも変わっていない。その前時代的な教育に、少し前まではひとつも疑問を持っていなかった。
親に敷かれたレールの上をひたすら歩き、幼稚園から高校まで全ての選択肢を与えられ、友人ですら制限され、親の言うことにひたすら従い続けることに、私はなんの抵抗もなかった。それが、生まれた時から当たり前だったからだ。
小学生の頃、とある女の子の家で添加物入りのジュースを飲んだだけで怒られた。当時は最先端だったテレビゲームをさせてもらって、怒られた。鬼ごっこをしていて、怒られた。みんなで駄菓子を買って、怒られた。私の記憶にはいつも私を叱る父と、その隣で頷く母の顔がある。決まって母は、父より前に立つことなくしずしずと私に説教を聞かせる父を肯定していた。母が父から私を庇ってくれたことなど1度もない。
会話のない食卓で決まった時間に食べるご飯の味はいつも同じに思えた。
学校でも同じだ。みんな同じ顔に見えて、みんなが同じようなことを言っているように聞こえた。ごきげんよう、Aさん。今日もいい天気ですね。そう言われれば、ごきげんよう○○さん、えぇとても穏やかな天気ですね、などと返す。ごきげんよう、なんて古めかしくすら感じる気取った挨拶ばかりしているから、制服を見ただけで「あぁ、あの、お嬢様学校の連中だ」なんて馬鹿にされるのに。
私が自分の環境を恥じるようになったのは、テレビコマーシャルで流れていた可愛らしい化粧品に一目惚れして、可愛らしいからどうしてもとそれを街中に見に行ったところ、初めて1人でそのような賑わったところに来たものだから、迷いに迷って人混みに酔い、そのまま倒れて救急車に運ばれてからだった。
ただ買い物にと1人で出てきただけなのに救急車に運ばれた自分が恥ずかしく、情けなく、もう高校生だというのに気になった化粧品ひとつ見つけられなかった自分に欠けているものを辿る内に、私の家庭環境と、それを完全に受け入れてしまった自分の甘さは、きっと自立するのに相応しくなかったのだと気が付いた。
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名無 - 神すぎる。占ツクでここまで完成度の高い作品は久々に見ました。 (2022年2月13日 13時) (レス) @page25 id: 918f2226ec (このIDを非表示/違反報告)
桜妃(プロフ) - 作者様語彙力ありすぎでは…!?更新楽しみにしてます! (2021年9月6日 3時) (レス) id: 16f20e3b96 (このIDを非表示/違反報告)
ぱぴ子(プロフ) - はじめまして…こんなに作品に引き込まれたのは初めてです;;主様のペースで更新楽しみにしております! (2021年8月26日 12時) (レス) id: de92cbd6b8 (このIDを非表示/違反報告)
しいい - すごく好きです!続き楽しみにしてます!! (2021年8月26日 1時) (レス) id: 69df95b685 (このIDを非表示/違反報告)
沙羅(プロフ) - 大っ好きです!蘭ちゃん…可愛すぎる…更新楽しみにしてます\(//∇//)\応援してます! (2021年8月25日 22時) (レス) id: f64d60a5d5 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:子@さぶ | 作者ホームページ:http://uranai.nosv.org/u.php/hp/8ef4f72c271/
作成日時:2021年6月30日 23時