�� ページ12
…
近所の公園のベンチでぼんやりと青空を見上げると、白い線を真っ直ぐに引きながら飛行機が飛んでいた。
「…もう行ったのかなあ。」
俺は見送りには行かなかった。
Aが、俺にそう頼んだからだった。
「またきっと、智さんの道と私の道が交差する日がきっと来る。そう信じてる。」
彼女は笑ってた。
手を振って別れたあの日、また別の道を歩き始めた俺たち。
「…結局、全部読めなかったな。」
RomeoとJuliet
決して結ばれなかった、悲劇のカップル。
けれどお互いを、情熱的に愛していた…
「…2人も、きっと会えるって信じてたんだよね。」
海の向こうは見たことないけど、きっと広い世界が待ってるんだろうな。
ざあっと風に揺られた葉っぱが少し出始めた桜の木を見つめる。
ひらひらと舞って手に乗った花びらを見つめていると、誰かにポン、と肩を叩かれた。
「隣、座っても？」
「ぅえ？翔くん…あ、隣どーぞ…」
なぜか翔くんが笑って立ってて、思わず変な声を上げてしまった。
「はい、まだ薄着は寒いよ。」
「…ありがとう。」
そっと手渡してくれたパーカーに袖を通した。
…どうしたの、とも
大丈夫？とも聞かずに、翔くんは俺の隣に座っていた。
「ねえ翔くん。」
俺の呼びかけに、ん？と首をかしげる翔くん。
「イギリスにも、桜はあるのかな。」
ざあっとまた桜が音を立てて揺れた。
「イギリスにも桜はあるよ。
けど、元々は日本のもの。」
翔くんが歌うように答えた。
「遠い昔、桜は海を渡ってイギリスに行った。
だから、日本とイギリスの桜は兄弟みたいな、いやもっと近いものだよ。
元はひとつだったから。」
「そか…」
イギリスがどんなところかは俺にはわからないけれど
遠い異国の地で、Aも桜を見てくれていたらいいな。
元はひとつだった桜。
桜を見るとき、俺たちは繋がっている。
ひらひらと舞い降りた桜を、ふっ、と吹き飛ばすと
ピンクの花びらは春風に乗って飛ばされていく。
「イギリスまで、届くかな。」
「きっと、届くよ。」
ざあっと三度音を立てた桜の木。
春も終わりの花吹雪が、俺と翔くんを暖かく包んでいた。
…「青に春と書いてセイシュンと読む。」fin
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