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「ご飯、美味しかったね。瑛一のお母さん料理うますぎて」
「そう?」
ご飯を食べ終えて、再び部屋に戻って来た僕とAさん。Aさんは、帆立君からあんな事を言われているだなんて感じさせない、普段通りの表情で過ごしている。
「Aさん」
「ん?どした」
「困ってる事あったら、いつでも言ってね」
思わず言ってしまった。こんな事言ったら怪しまれるかな。けど、少しでも彼女の力になりたい。
Aさんは最初驚いた顔をしたけれども、笑い出した。
「え、困ってる事なんてないよ。強いて言うなら、もうすぐ文化祭なのにやることが何も決まっていないのが困ってるかなぁ。私、実行委員なのに」
のんきそうにそう言うAさんは、どこも変わった所がなくて。若干、僕は寂しさを覚えた。
てか、そうだ。もうすぐ文化祭なんだ。Aさんは保健委員と実行委員を掛け持ちしている。
確かに、ホームルームとかで出し物の企画案を練ったりしているけど、進捗は全然だ。
「今出てる案って、メイド喫茶とお化け屋敷だったよね?」
「そうそう。何かあまりにもベタだからびっくりしちゃった。私はもうちょい凝った奴にしたいんだけどね〜」
Aさんのメイド服姿。思わず想像してしまって、頬が緩む。お化けの格好をしているAさんも想像して…うん、こっちもいいな。めちゃめちゃ可愛い。僕的にはどっちになってもいいな。
「瑛一はどっちがいいの?」
「そうだなぁ…まぁ、どっちでもいいけど、僕はお化け屋敷がいいかな」
「だよね。アトラクションやると絶対盛り上がるし」
そう言いながら彼女は荷物を片付け始める。時計を見ると…もうこんな時間か。
寂しさと不安感が急に出てくる。Aさんが帰ってしまうと、寂しい。
まるで彼女がどこか遠い所に行ってしまうようだ。
「じゃあ、私帰る。また明日、学校でね」
「Aさん」
ドアノブを今にも傾けそうなAさんの背中に、呼ぶ。Aさんは明らかに困ったような顔で、こっちに顔を向ける。
「どうした。今日は随分とかまってちゃんモードじゃん」
「…また明日ね」
本当に言いたかった言葉は秘めたまま、僕はばいばいを言った。
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作者名:稲穂 佳子 | 作者ホームページ:http://uranai
作成日時:2019年3月15日 15時