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蝉の大合唱と噎せ返るような暑さのせいではっと脳が冴え渡る

覚醒しきっていない思考をゆるゆると震わせながら頭上に置かれているであろう目覚まし時計へと手を伸ばし角張ったそれを手に掴む

落とさないように手探りで掴み取ったそいつの示す秒針を見るために重たい瞼をゆっくりと開くと、午前6時を過ぎた当たりだと教えてくれた


人間1人が生活するには広い方に分類されるであろう私に宛てられた寮の薄暗い室内にカーテンの隙間から朝の眩しい日差しが溢れかえる

無機質な機械音をたてながら少し古い型の扇風機が生温い風を製造し続けるのを横目にゆっくりと寝そべっていた身体の上半身のみを起き上がらせる

寝ている間に汗をかいていたのであろう。じっとりと肌がベたつくような嫌な感覚を覚えた



「1時限目は」


何の授業だったかな、といつもの日課となった目覚めの携帯チェックを行いながら独り言を呟きかけた刹那、一瞬で声が出なくなる

ドクリと心臓が音を奏でる。並べられていた文字列を噛み砕いた直後、現実へと思考が反転する

携帯のメールボックスに深夜届いていたであろう一通の手紙。文字が並ぶその画面を覗き込んだ瞬間、送り主の目を細めて笑う柔らかな笑顔が脳裏で再生される音が木霊した







「夏油先輩!」

「お疲れ。Aの方から来てくれるなんて珍しいね」

″もしかして、待ちきれなかったのかな?″
くしゃりと目尻に皺を作りながら歯を見せる夏油先輩の楽しげな声が放課後の廊下に響き渡る。

静寂の広がる廊下と話し声が漏れる教室がコントラストを描く。若干、開けられている窓の隙間から生温い風と蝉の叫び声が溢れかえる。
心做しかいつもより嬉しそうに見えるその横顔に自分まで釣られて笑ってしまった


気がつけば、あの任務帰りの夜から1ヶ月は経っていた。そのせいか惚れ薬なんて物は御伽噺のアイテムの一種に過ぎないのではと思い始めていたのはここだけの話。なんなら脳内でも遥か彼方遠くの引き出しにしまっていたレベルだ

だから、今朝、夏油先輩からの呼び出しメールを見た瞬間にとても驚いてしまった
確かに私の口が"惚れ薬"なんて言葉を紡いだのも欲したのも事実である。が、しかし、だ。まさか本当に目の前に用意されるとは思いもしていなかったのだ


「はい!ありがとうございます」
「じゃあ、約束通りお願いを聞いてくれるね?」
「もちろん、」

"私に出来ることなら何でもします"
開いた窓から生ぬるい風が入り込み、己の体をやんわりと撫であげる。力いっぱい、自身の気持ちを言霊として告げると、先輩は嬉しそうに頬を緩めた

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うさ - 続きがとても気になりますo(^o^)o (2021年7月13日 15時) (レス) id: c396716e54 (このIDを非表示/違反報告)
砂時計(プロフ) - こいみさん» コメントありがとうございます。この度は私の作品を読んでくれてありがとうございますっ!!こいみちゃんにそう言って貰えてとても嬉しいですっご期待に添えられるように頑張ります!!お付き合いの程お願い致しますっっ (2021年3月25日 12時) (レス) id: 3e29fdde61 (このIDを非表示/違反報告)
こいみ(プロフ) - こんばんは、コメント失礼します。砂ちゃんのお話が本当に大好きです。夏のお話書いてくれて、すごく嬉しいです!!更新楽しみにしてます、頑張ってください!! (2021年3月23日 23時) (レス) id: 5a5862897c (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:砂時計 | 作成日時:2021年3月7日 19時

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