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幼なじみを拾った彼は、毎日暗い顔をしている私に特別優しくしてくれる訳でもなく。
「辛気臭い顔すんなー？大丈夫だって。お前、もうそれより下に行くことは多分ねーから！良かったな！」と笑い飛ばす。
『最低！出ていけ！』と私が怒って言い返すと「はぁ〜？ぜってぇやだ！ここ俺ん家だし！」とあっかんべーしながら言ってきたり。
まるで子どもみたいなくだらない喧嘩をした次の日には2人揃ってゲームに熱中して、別の日には2人で買い物に出かけて。
辰哉と過ごす日常の中で私は少しずつだけど、また小さな幸せを見つけ始めたんだ。
それなのに、私はまた立ち止まってしまったみたい。
「で、どうした？今日面接だったんでしょ？上手くいかなかったとか？」
『ううん、面接は悪くなかったよ』
「じゃあ、どうして？」
『……夢はなんですかって聞かれて。自分の本心を答えられなかった。だって、私の夢は…もう叶わないから。』
不本意に空の世界から下ろされてしまった自分が、地上で叶えたい夢なんてないから。
瞳から流れる涙は、私を抱きしめる彼のTシャツにじわじわと染み込んでいく。
そして、迷いのない真っ直ぐな声で彼は言った。
「必ず夢を持つとか背負わなくていいよ」
『っ、でも！』
「俺はAが生きていてくれればなんでもいい」
『たつ、や…？』
「俺は……あの時、理不尽に夢も心の支えも奪われたAが本当にふっとこの世から消えちゃいそうで凄く怖かった。だから、なんとか繋ぎ止めておくために自分でも強引だなって思いながら事を進めた。自分でもむちゃくちゃなこと言ってんなとは思ったけど」
『……うん』
「薄々気づいてると思うけどさ、俺がこんなことしたのはAが幼なじみだからってだけじゃない。」
彼は身体を離すと、肩を掴んで顔の高さを私に合わせた。
「……ずっとAの事が好きだったんだ。でも、伝える勇気がなかった。Aが幸せにならいいって自分に言い聞かせて。でも心も身体もボロボロになったAを見て、やっぱり俺が幸せにしなきゃって思ったんだ。そのためにどうしても生きていて欲しかった。そして生きていれば、また心から笑える日が絶対に来るって証明したかった」
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作者名：Sakuya
| 作成日時：2020年12月3日 12時
