WILD DOCTORＳ

悪い人 ページ26

哲也先生の公開オペの助手が将ちゃんに変更という病院からの一斉メール。

「がんばってね。
　将ちゃんなら大丈夫。」

メールだけでもと送信した。
病棟担当だから動けない。
ホントなら将ちゃんの晴れ姿その場で見たかったな。
ガラス越しだけど。

あ、パソコンなら見れる！
パソコンを起ち上げて手術室のカメラを映す画面を見る。
まだ始まってなくて、院長が説明をしているところだった。

切り替わって哲也先生の手元を大きく映し出す。
相変わらずのきれいな指が手品みたいに動いて、あっという間に手術は進む。
時々将ちゃんの手元も映る。
あとは器具の要求の声。

頑張れ将ちゃん！
真剣に見てた、ちゃんと見てたのにいつの間にか意識がなくて…

＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊

誰かが私の名前を呼ぶ。
優しく髪を撫でながら…
今のままでいいの？
ホントは寂しいのにどうして我慢するの？
君のホントを見せて。
君を満たしてあげる。
だから「今」を捨てておいで。
いつでも待ってるから。

嫌だ違う！
満たされてないなんて嘘。
恋人にも優しく愛されて、仕事も順調で。
いいお友達もいて。
たくさん笑って過ごしてる。
だから呼ばないで！
怖いから来ないで！
だけど心地良い。
この手の感じは誰？
髪を乱さないで。
だけどもっと撫でて欲しい。

ハッ( ﾟдﾟ)として起きると、画面からは拍手の音。
終わったんだ手術。

そして驚いた。
寺辻先生がそばに立ってた。

「哲也の手術見せてもらおうと思って来たら
　月先生がうなされてて…大丈夫？
　どこか痛いの？
　痛い、痛いって言ってたけど？」

髪を撫でていたのは寺辻先生？
あの言葉も？
まさか…あれは夢？
体が痛いから夢見が悪かっただけ

だって寺辻先生はいつも通りきれいなお顔で優しく話す。

「すみませんでした。
　見れました？少しは。」

にっこり笑って頷いた先生。
哲也先生とは同郷で仲がいいと聞いた。
友人の手術を気にかけてたんだな。

「でも…心配だ。
　どんな嫌な夢をみてたの？
　睡眠薬を使っても寝た方がいいよ。」

「ありがとうございます。
　最近少し睡眠不足で。」

帰るんだろうと思ってた。
寺辻先生のコロンの香りが近づいて

「涙出てる。」

軽いリップ音とその涙にキス。

「今夜はちゃんと寝るんだよ。」

平気な顔してそれだけ言うと部屋を出ていった。

扉が閉まる音にまたハッとなる。
悪い大人の男の人なんだ。
忘れよう…事故にあっただけ
将ちゃんに会えば忘れちゃう。

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