【鬼滅の刃】闇柱は闇を背負う【時透無一郎】

壱 ページ3

「よく帰ったね、A」



鬼殺隊97代目当主、産屋敷耀哉は、

目の前に座る狐の面を付けた少年にそう言った。


彼の言葉を聞いた少年は、『お館様』と口を開いた。



『この姿の時は、闇夜神威と呼んでくださいと、何度も言っているのですが』



その凛々しい声を心地好く思いながら、産屋敷は微笑んだ。



「それはすまなかったね。だが私は、輝峯Aの方が、君に合っていると思うよ」



彼の名と同じ読みをする【輝】という字の入った輝峯A。

その名こそが、″少女″の真名だった。


その名を知っているのは産屋敷の他に、

産屋敷の妻、あまねと、二人の間に生まれた五人の子供たちだけである。


彼女が偽っているのは、名前だけではない。

年齢、身長、外見、使える呼吸...ほぼ全てが偽りだった。

先程産屋敷に発した声も、本来の声ではない。


ならば何故、彼女はそんなにも己を偽るのか。


全て、自分を強くするため。

女よりも強い男として生きるためである。


それには、彼女の辛く悲しい過去が関係していた。


しかしその過去は、当主である産屋敷も知らない。

闇柱であるAの存在は、ずっと闇に包まれたままなのだ。



『ありがたきお言葉ですが、私は死ぬまで、

　お館様方以外の誰にも自分の真名を教える気はありません』



彼女は真っ直ぐな性格だった。

それは、約二年間当主として見てきた産屋敷も当然分かっている。


だからこそ、柱達にすら心を開かないAを悲しげな目で見つめた。

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