125. あゝ、アラバスタ! (追悼のシンフォニエッタ 4) ページ30
A……。
とても小さな声で名前を呼んでみたのだけれど、その声は彼女の耳にはしっかり届いたようで、網膜の光を揺らしたAと視線が絡む。
「おれ、思うんだけどよ……確かにサッチはもういない。でもアイツなら……」
おれは一間おいてからAに微笑みかけ、その長い髪を撫でる。
「サッチなら……お前が生きて無事でいたんなら『それでいい』って笑いながら言うはずなんだ。つまり何が言いたいかっていうとだなぁー……えーと、Aは笑ってろ!そう言う事だ!」
だぁぁぁー!
やっぱり上手く言えねェ〜。
向いてないんだよ、こういうの……。
自分の思いが上手く伝わってないような気がして視線を外すと、腰のあたりに温もりを感じた。
それはAがおれを抱きしめ返してくれているものだった。
「エース、本当にありがとう」
Aはおれに見られないように顔を胸あたりに埋めていたが、沈黙って泣いているのが分かり、その美しい涙に胸がむせた。
きっと、これからAはもっと涙を落とすことになる気がする。
アイツの元々の立場と、今の海賊という立場。その間に苛まれて傷つく姿を想像するのは難しくない。
できればおれがーー
おれがお前の零した涙を掬ってやれればいいのに。
今は黒ひげを追ってる身。
そんな状況でAを支えてやることなどできるはずがない。
それなら……
「A、自分でどうしようも出来なくなった時はルフィを頼れ!」
あいつはあー見えて頼りになるやつだ。
おれの言葉にAは埋めていた顔を上げ、なにかを思い出すような優しい眼差しを見せた後「うん、知ってるよ」と微笑んだ。
Aにこんな顔させるなんて、我が弟ながら羨ましい奴。
「なんか……エースとこうして話してると……安心するね」
ニコリと笑うAの顔に動揺してしまう。
「お前……本当に無自覚すぎるっつーの!」
「ん?」
「なんでもないさ」
そうしているうちにAの瞼が段々と落ちていき、おれに体を預けたまま眠ってしまった。
「……お前はいっつも無理しすぎなんだよ」
眠るAに自然と近づいていく顔。
触れる程度に唇を重ねてみれば、1度だけで終われる訳もなく、
「やべっ……止まらねェ」
寝込みに何やってんだよ! と、思ってはみたものの何度もその柔らかい感触を楽しんでしまう。
そして、Aの体をそっと抱き寄せその温もりを感じたままおれも眠りについた。
「あったけぇー」
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奏(Kanade)(プロフ) - アリスさん» ありがとうございます!よろしくお願いします^ ^ (2021年5月2日 18時) (レス) id: 9dfcc2ee40 (このIDを非表示/違反報告)
アリス(プロフ) - 返信ありがとうございます!また更新してくださって嬉しいです!これからも応援しております。 (2021年5月1日 18時) (レス) id: 7e246103d6 (このIDを非表示/違反報告)
奏(Kanade)(プロフ) - アリスさん» 初めまして!コメントの返信が遅くなってすみません。連載この連休で少し進める予定です。アリスさんにこの連載を好きと言っていただけて、すごく嬉しいです!頑張る気力が湧いてきました笑(^^) (2021年4月29日 14時) (レス) id: 9dfcc2ee40 (このIDを非表示/違反報告)
アリス(プロフ) - 奏さん初めまして!いつもこの作品を楽しく拝見させていただいております。この作品はもう更新しないのでしょうか?私はこの作品が凄い好きなので、良ければまた更新再開して欲しいです!ご検討よろしくお願い致します。 (2021年4月6日 18時) (レス) id: d582cbc40a (このIDを非表示/違反報告)
夏蜜柑炭酸(プロフ) - 夢主愛され最高ですよね!! お悩み中なのですね!救済していただけると私はすごく嬉しいですが死んだとしても奏様のこの作品大好きです!これからも応援してます! (2021年1月16日 18時) (レス) id: 72cb3f7599 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:奏 | 作成日時:2019年9月25日 19時