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「ん−ん。むしろ、ありがと。こんな綺麗なとこ、教えてくれて」
今ここから見える景色も、ペットボトルから伝わる温かさも、気温も。ここに来るまでのバイクの感じも。全てが最近ずっとモヤモヤして焦っていた気持ちを落ち着けてくれた。こんないいところに気持ちいいことを教えてくれて、私が感謝を伝えるべき。謝られるなんておかしいくらい。
高「…俺、正直すげー残念」
「え？」
高「Aの歌も、バンドもすげーかっこいいって思ってたから。これからも見に行きたいって思ってたくらいだし」
「…あぁ、」
…気持ち、落ち着いてたのに。そんなことを言われてしまったら落ち着いた焦りとか悔しさがまたブワッと湧いてくる。私だって、これからもやりたかったよ。
高「でも、話せなくなるのは、もっと嫌、だと思う」
高「どんなに小さい声でも、そっけなくても。せっかく仲良くなれたのに、声が出なくて話せなくなったり、喉がおかしくてAが楽に話せない状態で話すっていうのは…うん、もっと、嫌かなって思うから、」
高「俺は、Aが決めたこと、応援する。だから…最後までバンドは応援するし、大我に話すっていうのも応援してる」
夜景の方に視線を向けたまま、雰囲気を和らげるためか真面目な話をしてるっていう恥ずかしさを誤魔化すためか、少し笑いながら話す優吾くん。
ゆっくりと、言葉を選びながら話すそれが手の中にある温かさのように沁みてくる。…これだから酔っぱらいはダメだ。すぐ泣きたくなる。
「…なら、さ」
このまま優吾くんの言葉を咀嚼してしまったら「泣きたくなる」だけじゃなくて本当にアン身だが出てしまう。
だからそれを誤魔化すようにペットボトルを開けながら声を出す。
「大我に、ちゃんと話したら…予定が合うとき、また、ここ連れてきてほしい。です。バイク、すごく気持ちよかったから…また後ろのりたい」
多分ここは私の気持ちが落ち着く場所、になると思う。酔っていなくても、多分そう。ここで景色を見ながらボーッとする時間、すでにもうすごく好き。
でも、今日は優吾くんの背中に頭を預けて目を瞑ってたから道が分からない。だから乗せてもらってまた連れてきてもらうしかない。
…そんなのは言い訳で、本当はバイクの後ろに乗せてほしい。っていうのと、優吾くんという、一緒にいて妙に落ち着くこの人と落ち着く場所に来たい、という、それだけ。
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作者名：天羽
| 作成日時：2022年11月30日 3時
