No.08 ページ8
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どこからか私を呼ぶ声がする。だけど膝と顔に伝わる温もりからどうしても離れられなくて、あともうちょっと…と縋る思いでいた。
「おい、起きろ。今度こそ遅刻すんぞ」
『やだ…眠い……ん？』
「やっと起きたか」
『……ん？』
目が覚めると、聞き覚えのある声と謎の首の痛み。
一時思考が停止したが、私の膝上で大きく欠伸をするシロを見て、今まで寝ていたことに気づく。
『はっ…！どうしよう、寝てたっ。あの人もう来てるよね！？……あ』
「あの人？俺以外来てねぇぞ」
『あ、わわわわ』
まさか、その"あの人"が隣にいるだなんて。その上どうやら私は紅白髪の男の子の肩を借りて眠っていたようだ。
自分が考えていたシチュエーションと全く違う展開に、私はもうパニック状態で、勢いよく立ち上がるものだからシロが驚いて飛び降りている。
「なんか約束でもあったのか」
『い、や…その……』
ただ一言、ごめんと謝れば済む話。
その後は全力ダッシュをして立ち去って、二度と彼の顔を見ないようにすればいい。
そして誰とも話すことなく、ひっそりと生きればそれだけで……。
それだけでいいのに、私の声は発することを忘れたかのように唇をパクパクさせるだけ。当の本人もそんな私を見て首を傾げている。
「ゆっくりで良いんだぞ。焦らなくていい」
『…え？』
焦らなくて良い。そんなことを言われたのは初めてかもしれない。
だって、今まで他人の心の声を思わず口にしてしまって気味悪がられるか、それを防ごうとすると言いたいことあるならサッサと言えと急かされることしかなかったから。
初めてのその優しさに、私の彷徨っていた声はゆっくりと口の外へ脱出していった。
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作者名：空涼
| 作成日時：2019年5月10日 19時
