No.48 ページ48
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『ねぇ、もう遅いし帰っても大丈夫だよ?』
「つってもまだ熱あるんだし、辛ぇだろ。なんか欲しいもんあるか?買ってくる」
『あ……待って』
「ん?」
『いや、その……』
熱のせいか段々赤くなってくるAに、早く必要な物買ってこねぇと…と考えていると、まさかの展開が待っていた。
『何もいらないから、ここに……いて、ほしい』
「お、おぅ…」
布団を目の下まで持ってきて、モゴモゴと喋るAに胸がギュッと誰かに鷲掴みされた気がする。病気か?と思ったけど、そんなもんじゃなかった。
対するAも、言い慣れていなかったせいかすぐに目線を逸らしてなかったことにしようとしていた。
一応俺は分かった、と言って立ち上がりかけた腰を下ろし、嬉しそうにするAを眺める。
「もっと甘えていいんだぞ」
『からかわないで…』
そうだ、こいつは親の愛情を知らない。俺は少なくともお母さんがいたし、兄姉もいて友達にも恵まれたけど、Aはつい最近まで本当の一人だったんだ。
なら、俺がAにいろんなもん与えてやらないとな。
「A」
『なに?』
「俺、Aのこと…」
俺は、一体この言葉の先になんて言おうとしたのだろうか。
その答えが分かる前に、突然鳴り響いた着信音にピクリと身体をビクつかせ、ポケットから携帯を取り出す。
「…はぁ」
『家族から…?』
「あぁ、悪ぃ」
それは姉さんからの早く帰ってこいメールだった。
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作者名:空涼 | 作成日時:2019年5月10日 19時