SNOW MAGIC（緑） (ページ16)

今日:1 hit、昨日:2 hit、合計:28,048 hit

･ページ16

これだから夜は嫌いだ
今なら、このまま立ったまま寝られそうだ

「春ちゃん…………？」

「阿部くん」

なんでなんだろう

阿部くんは、ヒーローみたいだ

私が困ってると必ずと言っていいほど私の目の前に現れる

「樹は？」

「来なかったんです」

「え？」

「で、また、船、乗り間違えました」

驚いているような、呆れているような複雑な表情を見せる阿部くん

でも、またすぐに笑顔に変わる

私を安心させる為だろうか

「今、俺の家弟いるけど来る？」

「え、いや、でも」

「いや、言い方が悪かった…………弟いるけど一緒に帰ろ？」

そう言って右手を差し出してくれる

左手を重ねて、キュって握る
私の冷え切った手とは違って暖かかった

帰る道が同じ、一緒に今阿部くんの家までの距離を歩いている

それだけが嬉しかった
周りが少しだけ明るく見えた

付き合ってる訳でもない、相手が今も私のことを
『好き』

と思っているのかも分からない、

いや、
3年前でも分からないだろう

「ただいま」

「お邪魔します」

阿部くんの家に着くまでも話をして盛り上げてくれた

手を繋いだまま、ドアの鍵を開ける姿

もし、阿部くんと付き合えて同棲するとなったら、こういうことは毎日起こるわけだ

手を繋いだまま家に帰ってドアの鍵を開けてくれて、そんな阿部くんの姿を毎日見ることが出来るのなら、私は幸せだと言えるだろう

「あれ？お兄ちゃんの……彼女さん？」

「あ、いや、」

「そうだよ、俺の彼女」

返事に困る私

平然と答える阿部くん

阿部くんの弟さんは阿部くんに似てかっこよかった

イケメンの弟はイケメンになるのだろうか

「ふ～ん」

「だから、手、出したらダメだよ」

なんの話しをしているのか分からない

でも、真剣な2人の表情からして真面目な話をしているということが見えた

「阿部くん…………ご、ごめん…ね」

「ううん、いいよ。大丈夫、お風呂入って来て」

不思議な顔をしている阿部くんの弟さん

もしかしたら、私が「阿部くん」と言ったのがいけなかったのだろうか

付き合っているのなら下の名前で呼ぶのが、当たり前といっていいだろう

阿部くんが渡してくれた前と同じ黒いパーカーと、ズボンを持ってお風呂場まで行く

「ふぅ…………」

お風呂から上がって、着替える