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楽しい時間というのはあっという間で、束の間の温泉旅行から帰ってきた私に待っていたのは弔さんが手術を受けるという現実だけだった。
そしてこんな私も一応組織では隊長を任され上に立つ人間になった。
いくら隊長とはいえ年下の新参相手では威厳もないし務まらないのではないかと不安だったが、部下たちはデストロの意思云々で無条件に慕ってくれるので助かっている。
それにしても組織の運営というのは面倒だ。
部下たちとの打ち合わせや上層部の会議などといったこれまでにはない堅苦しい仕事が多いこと多いこと。
慣れない環境で右往左往しているうちに弔さんとの会話の機会がなかなか取れず私は心に蟠りを抱えていた。
「弔さん！今日はもうお休みになられますか？」
「あぁ」
そして結局1月3日の晩。
明日から弔さんは4ヶ月の手術に行ってしまう。
もうチャンスは今しかないと、会議を終えて自室に向かおうとする弔さんに慌てて声をかけた。
「…ついて来い」
手術前日だしゆっくりしたいかもしれないと思いつつ2人で話したいということを伝えると、顔色一つ変えずにそれだけ言われて弔さんの後をついて行った。
「ごめんなさい突然」
「いや…俺も呼ぶ予定だった」
エレベーターの中で人目がないとわかると弔さんはさっきまでとは打って変わって優しい声と表情に変わって、しっかりと目を合わせて微笑んでくれた。
最後くらい2人きりで過ごしたいと思ってくれていたのだろうか、だとしたら嬉しいな。
「なんか言いたげだな」
部屋に入って早々、私の言わんとしていることを汲み取ってくれた彼はコートを乱雑に放り投げてネクタイを緩めながら促すようにこちらを見やった。
それに応えるように、意を決して口を開く。
「…転弧ってどなたですか？」
「は…？」
先日弔さんが突然口にした名前だ。
かなりお酒が入っていた上寝ぼけていたからうっかり口を滑らせたのかも、そもそも本人は覚えていないかもと思っていたけど案の定弔さんは自分が言ったことを忘れているようだ。
「お前それ…どこで…」
「弔さんが言ったんですよ？」
あまりの狼狽ぶりに少し笑ってしまいながらもあの時の弔さんの状況を説明して覚えていなくても無理はないとフォローをした。
けれど弔さんは過ちを犯したとでも言いたげに大きなため息をついて視線を落とした。
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作者名：さかさま | 作成日時：2022年4月20日 22時
