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「ふぁ〜きもちぃねぇ」
「ここの温泉、傷の治癒にいいそうですよ」
旅館が貸切ということはもちろん、大浴場も貸切。
女湯の暖簾をくぐった先で私はトガちゃんと2人きりで温泉を堪能していた。
こういういわゆる裸の付き合いは初めてなので少し緊張したけど、改めてトガちゃんのプロポーションに打ちのめされて膝をついたのはここだけの話。
前々からモデルさんみたいだとは思ってたけど…こんなの発育の暴力だ、とても1歳違いとは思えない。
「Aちゃん、弔くんと離れ離れ寂しいねぇ」
「…うん、でもちゃんと踏ん切りついたから」
だから大丈夫と答えるとトガちゃんはニコッと笑って爪先でお湯をぱしゃぱしゃと弄んでいた。
ずっと気にかけてくれていたんだろうか、優しいな。
「弔さんがぜーんぶ壊してくれたあと…トガちゃんは何がしたい？」
計画では弔さんが目覚めた瞬間から全てを壊し始める。
夢が現実に近づいてきた最近になって、私はその夢の先を考え始めるようになった。
全てを壊した先でみんなは新たに何をしたいのだろう。
「私は普通に恋をするのです！そして普通に生きるのです！」
キラキラと目を輝かせるトガちゃんは何ら変わったことはない、普通の恋する女の子。
長らくトガちゃんと一緒にいる中で私なりに彼女の普通を理解しているつもりだ。
好意を寄せた相手に対して同一化願望を抱くのは誰しもあることで、彼女の場合はそれが個性と結びついているだけ。
同一化の過程で血を採取するため人を傷つけるのであって、決して世間のイメージのように猟奇的に人を傷つけることを楽しんでいるわけではないのだ。
「Aちゃんは？何がしたい？」
質問が自分に返ってきて思わず視線を落とした。
私は弔さんのためになることがしたい、弔さんの夢を叶えるお手伝いをしたい。
でも、弔さんは全てを壊すという夢が叶ったその後で何をしたいのだろうか。
「弔さんの側にいられれば、それで十分かなぁ」
弔さんは未来に何を見ているのだろう。
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作者名：さかさま | 作成日時：2022年4月20日 22時
