水の鏡面【クー・フーリン(オルタ)】 (ページ11)

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【sanctum Gradale ⅰ】ページ11

「聖杯は、A...彼女の魂以外の全てだ」
魂以外の全て、が聖杯？どういう事？
「どういう事でしょうか」
「そのままさ。彼女は血肉や生殖器やらの身体が全て聖杯だ」
ただ、とマーリンは続けた。
「私達、特にマシュとマスターが知っている聖杯とは違う」
「違うって...じゃあAちゃんが持つ聖杯って何？」
「マスター、イエス・キリストの聖杯は知っているかね」
黙り込んでいたエミヤは急に話を切り出した。

イエス・キリストの聖杯。
イエス・キリストがキリスト教の教祖で、亡くなったあと復活したって言うのは知ってるけど、聖杯についての話は知らない。

そう伝えようとすると、エミヤは苦笑して「まぁ、知らないだろうな」と言った。
「では、マシュ。わかるかな？」
「はい。イエス・キリストは亡くなる直前に弟子に、自分の血だと言ってワインを飲ませた話ですよね。そして、それを注いだ杯を聖杯と呼んだ」
「ああ。彼女の聖杯の場合、この話の杯が血肉だと思え」
理解はした、と思う。多分だけど。
でもそれだと、気になることがある。

「じゃあ、心は？」
「...君に言うのは酷だが、───────彼女の感情や魂は不要のもの。つまり、聖杯として機能するのは感情を失っている時期だけ、という事だ」
言葉を失う。

じゃあ、Aちゃんは、何も思わず、ただ笑って生きているだけ？

「彼女は自然に聖杯の寵児になってしまった。だから、感情を失った...と予想するのが適切なのだろうね。何も情報がない今は」
エミヤは重く息を吐いた。マシュと私は黙り込むしかなかった。
「...Aちゃんが感情を取り戻せば、いいってこと？」
「端的に言えばそうだけど、それは希望論だよ。マスター」
若干空気になっていたマーリンが話しかけてきた。
希望論だって、何でかな？
「だって、そうすればAちゃんは...」
「...あー...、私の言い方が悪かったね。彼女を救えば、君の存在が抹消される」
「まっ」
嘘でしょ、抹消されるってどうして？
そう思っているとマシュが、言葉を荒らげた。
「待ってください！抹消されるってどうしてですか!?マスターは、何もしてないじゃないですか!?」
「まぁ、話はちゃんと聞いてくれるかな」
「...すみません」
ヘラクレスが手だけ霊体化を解き、マシュの頭を撫でた。
「わわ」
マシュは、ヘラクレスに撫でられた頭を触って焦っていた。