ベイビー・ラブ (ページ31)

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ep.11 ファーストキスページ31

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ふと気が付いた時、私は温かい肩に寄りかかっていた。肩を撫でる生暖かい風と居酒屋の喧騒とは程遠い静かさが気持ちいい。

私、居酒屋に居たはずなのに。ここはどこだろう。

｢………ほくと、先輩？｣

私の最後の記憶が北斗先輩だったからその名前を呼んだ。でも、横から聞こえる北斗が良かったの？って声。

それは北斗先輩のものじゃない。
ずっとずっと会いたかったあの人の声。

｢樹…先輩……？｣

｢ん、せーかい｣

｢…なんで……？｣

｢A迎えに来いって北斗に呼ばれた｣

もう、夢かと思った。ずっと会いたすぎて私は樹先輩の夢を見てるんだって思った。

だって、じゃなかったら樹先輩が私のためにこんな所に来てくれるはずがないもん。きっと私は飲み会の席で眠ってしまったんだ。

そう、気付いてしまえば素直に甘えられた。優しく髪を撫でてくれる手のひらに擦り寄って再び目を閉じる。甘えんぼだな？って樹先輩の声が心地いい。

｢歩けるか？｣

｢樹先輩が…手繋いでくれたら｣

｢何、積極的じゃん今日｣

だって夢だから何でも言えた。樹先輩と歩く家までの道のりも、星が瞬く夜空も全部フワフワしてて作り物みたいだった。

でも、樹先輩の熱い手のひらだけがやけにリアルで心臓だけがいつまでもドキドキしてる。繋がれた左手が溶けてしまいそう。

｢階段登れる？｣

｢はあい……｣

｢ほんとかよ｣

アパートに着いて、部屋までの階段。腰に回る樹先輩の腕が嬉しかった。

だけど、律儀に玄関の鍵まで開けてくれた樹先輩が帰ってしまうのが寂しかった。

だってもう少し傍にいて欲しかったから。夢なんだから、これくらいのわがままは許してほしいと思った。

｢樹先輩………｣

待ってくださいって掴んだ先輩のTシャツの裾。ぴくりと肩を揺らした樹先輩が私の方を振り返る。

｢まだ帰らないで………｣

｢それ、本気で言ってんの？｣

白く光る蛍光灯の下で樹先輩の言葉に頷けば、小さく舌打ちした樹先輩が私の腕を掴んだ。

引きづられるまま部屋に入って、玄関のドアに押し付けられる。

｢男女が密室に居るってさ、こーゆうことなんだけど｣

暗闇の中に響く樹先輩の声は、今まで聞いた事がないくらい低い声だった。