ベイビー・ラブ (ページ11)

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普段はあんまり行かない感じのお店の試着室。

お似合いです～って、お世辞なのか本音なのか分からない言葉に愛想笑いを浮かべながらキョロキョロと北斗先輩を探す。

ひとりにしないでよ～って念じていれば北斗先輩が現れて、それいいじゃんって。

｢え、じゃあこれにする｣

｢即答かよ｣

｢だって似合ってるって｣

｢まあな？｣

試着している服をひしっと抱きしめたら、私たちをカップルだと勘違いした店員さんに素敵ですねって微笑まれて焦る。

だって、北斗先輩と付き合ってないし。しかも、私が好きな人は樹先輩だし。てか北斗先輩も否定してくださいよ。

そう思うのに、北斗先輩は曖昧に笑ってるだけ。

先輩は勘違いされちゃってもいいんですか？私なんか女としての眼中にないくせに。

じゃあこれにしますって店員さん言いながらじとって北斗先輩を見つめたら、北斗先輩はイタズラを企んでいるような顔をして唇の端をくいっとあげた。

｢妹なんですよ｣

唐突な言葉に驚いたのは店員さんだけじゃなくて私もだった。そうだったんですねって店員さんはちょっと焦ってて可哀想。

｢もう、先輩の意地悪｣

｢お前と恋人はないわ｣

｢だからって妹？散々嫌がってたくせに｣

｢まあ、妹ならいーかなって｣

レジに向かいながらコソコソ話していたら、ご兄妹で仲がいいんですねって店員さんが言う。

これ以上店員さんを困らせたくなくて、まあって頷いたら北斗先輩が吹き出す。何この人。普段クールぶってるけど意外とこんな感じなんだ。

｢今日はお兄ちゃんが全部買ってくれるみたいなんで｣

｢は？勝手言うな｣

｢ねえ、いいじゃん｣

｢えぇ…｣

これは仕返しだった。私と店員さんに意地悪した仕返し。

でもちゃんとお金は払うつもりだった。ちょっと困らせてやろう。そう思っただけだったのに、北斗先輩はおもむろに財布を取り出すから本気で焦る。

｢え、ちょ、冗談ですって｣

｢んー？｣

｢待ってください！｣

｢甘えとけばいーんだよ、馬鹿｣

その代わり後でお茶奢ってって言いながら北斗先輩はスマートにお会計を済ませてしまった。1個しか歳が変わらないのに、その姿は大人びててずるいって思う。

俺は樹と違って金欠じゃねーのって、お店を出た後に北斗先輩が言うから、今はそれに頷くことにした。