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side_you
樹｢……雨だ…｣
ポツポツと雨が、私たちを濡らし始めた。
｢…帰らなきゃ｣
私たちは傘なんか持っていない。
次第に強くなりそうな雨だ。
早く帰らないと、樹までびしょ濡れにさせてしまう。
強引に涙を止めて立ち上がる。
すると、隣の樹が勢いよく立ちあがり、私の前に立ち塞がった。
樹｢踊ろう！｣
その言葉に、耳を疑った。
踊る？この雨の中？？
雨は徐々に強くなっていた。
雨粒は地面に打ち付けられ、弾んでいる。
しかし樹はそんなことは気にせず、
公園の中心へと走り、大きく手を振ってみせた。
｢…ばか、なの……？｣
なんて呟きながらも、私の表情は晴れた。
樹があまりにも楽しそうだから。
私は樹のもとへ走った。
樹の目の前に立つと、
樹は優しく私の顔を自分の服の袖で拭う。
樹｢顔、雨で濡れてる｣
そう言いながら私の涙を拭ってくれる樹は、
少し照れくさそうに微笑む。
私もつられてはにかんだ。
それから2人で、誰もいない雨の中の公園で踊る。
それは決してダンスとは言えない。
飛んだり、回ったりを繰り返しただけ。
でも、それは私にとっては、
海外映画のワンシーンのようにキラキラしたもので、私は夢中になって楽しんだ。
大きな水たまりに2人で一斉にジャンプする。
盛大にハネた泥水で靴はグショグショ、
それもまたおかしくて、2人で笑い合う。
｢楽しい！雨！！
こんなに楽しいなんて、知らなかった！！！｣
いつの間にか、声をかき消してしまうほどに雨は激しくなっていた。
そんな、いつもは憂鬱な雨音も、
樹となら賑やかなリズムに聞こえる。
樹は私に、いろんな世界を見せてくれる。
興奮が冷めない私に、樹は静かに手を伸ばす。
それは握手を求めているようで、
私は素直に樹の手を握った。
しかし樹は、そんな私の手を少し持ち上げ、
キスをした。
樹｢…好きだ……｣
私の手の甲に唇をあてながら微かに動いた唇は、
確かにそう呟いた。
雨のせいで冷えきった私の手に、
はらはらと滴る熱い雫は、樹の涙。
そんな樹を目の前にして、私は何もできなかった。
でも、この時微かに、思った。
私はこの時を、ずっと…待っていた気がする。
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作者名：さいか
| 作成日時：2018年10月1日 22時
