44.（side_juri~ ページ44
side_juri
｢君は一体、誰のことが好きなの？｣
目の前の彼女、京子の言葉に俺の背筋は凍りついた。
京子の真っ直ぐな瞳、
その凛々しさはこの世の何もかもを見透かしているかのようで…不気味な美しさをまとっている。
京子はうちの学校一の美人、マドンナ的存在。
金持ち、成績優秀、スポーツ万能。
性格に少々難がある…ということ以外は完璧な女性。
そんな彼女と初デートの帰り、
俺はすでに、彼女とは今日で終わることを予期した。
｢誰って…京子のことが好きだよ｣
もちろん、嘘。
甘い言葉で彼女を惑わし、口づけを迫る…
これで誤魔化せる…はずだった。
彼女の唇に触れる前に、俺の左の頬に強い衝撃が走る。
京子にビンタをされたのだと気づくのに、
そう時間はかからなかった。
目の前の京子の顔は、
冷酷という言葉がこの上なく似合っていた。
京子｢私は君の好きな人の代わりじゃない。
あなたの満足のためだけに利用されるような、
そんな安い女じゃないわ｣
京子の口からはド正論が溢れ出る。
そして、京子の語彙力に感心する余裕がないほど、
その一言一言は俺の胸に突き刺さった。
俺はそんな京子を目の前にして、
言葉を出すことができない。
京子｢君も、私と同じだと思ってた｣
その声は、どこか寂しげで、
とても京子の言葉とは思えなかった。
京子｢でも違った。
私は、自分の気持ちに嘘をついてまで、こんなことしない。…そこまでクズじゃないわ｣
その意味深な言葉は俺に向けて…というより、
京子が、京子自身に言い聞かせているようだった。
京子は再度、俺の目を真っ直ぐ見つめ、
京子｢さようなら。
君の、不幸を…祈ってるわ｣
そう言い残し、俺の前から去って行った。
一度も振り向かず堂々と歩く背中を、
俺はただ見つめることしかできない。
今までたくさん経験してきたはずの別れ。
それなのに、京子との別れは、
慣れない痛みが胸に残った。
熱を帯びた左頬が痛い。
でも、それ以上に、心がひどく傷ついていた。
Aに会いたい。
京子の言った通り、俺は嘘つきだ。
でも、心はまだ…正直でいる。
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作者名：さいか
| 作成日時：2018年10月1日 22時
