48 ページ48
呆れた声をかける。
「あれも持って帰るんじゃないだろうなぁ」
カウンターの端でキツめの酒に四苦八苦している櫻井をちらりと見る。
「持って帰らんわ。
あの人は帰る場所もやる事もあるだろ。
俺が拾ったのはそれがない奴らだよ」
確かになかった。
帰る場所を奪われて何をすべきかわからなった。
雅紀もそうだと言っていた。
あの日……
初めて皆で買い物に行った日。
帰って智の部屋で買ってきた惣菜と酒とで腹を満たしながら話した。
そして聞いた雅紀とニノの過去。
ニノより辛くて雅紀よりマシだと思った。
あんなに明るくてポジティブな雅紀の過去はずっと悲しいものだった。
「やっと話せるようになったみたい」
そう言って儚げに笑った。
いつもの屈託のない優しい笑みではなかった。
「……潤？
起きてる？
……飛んでる？」
「えっ……あぁ飛んでた」
「そっか……」
「で、何？
何かあるの？」
「んにゃ、飛んでるっぽかったから声かけた。
大丈夫そうだな……」
そう言って潤の頭を撫でる。
この人は……
人の心の奥底の気持ちまで感じ取る。
引っ付き魔の引っ付き虫は自分が疲れて甘えたい時だけでなく、気持ちが落ち込んでいる人物の所にも行って引っ付く。
沈んでいた気持ちは人の体温に触れる事で落ち着き浮上する。
本能で嗅ぎ取り本能で引っ付く。
その人の横に行き凭れかかったり、膝の上に乗ったり、後ろから抱きついたり……その人の沈み具合で引っ付き方を変える。
意識せずふらふらと寄って行くのだ。
何を話すでもなく人の温もりと智から香る優しくて甘い香りに包まれ癒される。
「さっきの爽やかなのおかわり」
すっかり度数キツメは飲み終えたようで次をオーダーしている。
後の２人はまだちびちびやっているというのに。
「近くに呼ばないのか？」
「まだいい……
面白い人だけど」
あちらのお客様から……ですっかり面白い人確定してしまったようだ。
何度か同じ店に来ているのは知っていた。
強引に声を掛けるでもなく智の様子を伺っているだけだ。
だから智も様子を見ている。
恐らく智から声を掛ける事はないだろう。
でも見ている。
どのタイミングでどう声を掛けてくるのかを。
元野良猫は外の人間に対しては慎重だ。
内に入れた人間には寛容だか……
それから暫くは静かに時間が流れた。
櫻井からあれ以上何かしてくる事も話し掛けて来る事もなかった。
ただその後会う度に座る席が少しずつ近付いて来た。
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 156人がお気に入り
お気に入り作者に追加
この作品を見ている人にオススメ
この作品を含むプレイリスト 
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：蒼羽
| 作成日時：2020年2月10日 8時
