22 ページ22
携帯もカードも使えない。
家にも帰れない。
父親の会社が乗っ取られた。
会社だけでなく生活そのものが奪われた。
徹底的に……
電話も出来ず記憶を頼りに友人たちの家を訪ねるが揃って留守だった。
もうそれ以上は財布の中身がやばかった。
基本カードだったから手持ちの現金は多くなかった。
なのにカードも使えない。
途方に暮れた。
何処に行けばいいのか……
誰を頼ればいいのか……
わからなくなった。
挙げ句に酔っ払いに絡まれて、この様だ。
智の申し出を受けるしかなかった。
受ければ衣食住は確保出来る。
智の言う通りスキルも手に入る。
手に入った給料をどう使うかも自由だ。
双方が了解するならばトップクラスの企業の社長秘書や役員すらも可能だ。
自分で起業するもよし。
接客の為の得たスキルが生きていく為のスキルとなる。
手にした給料を使って更なるスキルを取得するのもありだ。
雅紀の言う急転直下の急転換でまだ何をどうしたらいいかまで考えられないが、これから考えればいい。
そう再確認した時、ノックの音が聞こえた……
３日もすれば熱も下がり食事も普通に取れ、傷の大袈裟な包帯も取れていった。
熱が下がってからは店に付いていき、ナイトの控え室のマジックミラー越し店内の様子を見学していた。
客に見知った顔を見つけるとちくりと胸の奥が痛み、不安に襲われたが、やると決めた以上それらを飲み込んだ。
「そろそろ始めるか」
包帯が取れた頃、智が切り出した。
店に出る為の基礎を身に付けるのだ。
英会話は海外旅行好きな親のおかげで行く事も多く覚えて使う機会があった為、日常会話なら出来た。
なので室内では英語で話した。
後は立ち振舞いだ。
歩く姿勢からお花ちゃんとひよこの待機姿勢。
お辞儀の角度まで……
「ピシッとはふんぞり反るんじゃないよ。
カクッて曲がらない。
スッと曲がって……」
……擬音が多い。
当たり前だが普通に歩けばいいと言うものではなかった。
背筋は勿論、手足の指先まで神経を行き届かせなければならない。
それに気を取られると動きが硬くなる。
……で爆笑される。
「ひたすら繰り返して慣れるしかないよ」
思いっきり爆笑して出てきた涙を拭いながらのフォロー。
「元々ふんぞり反ってるから猫背より立ち姿とかはマシだよ。
ただロボット……」
自分で言って又笑い出す。
失礼過ぎないか……
笑われながら部屋の中を散々歩いて足は棒になっていた。
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 156人がお気に入り
お気に入り作者に追加
この作品を見ている人にオススメ
この作品を含むプレイリスト 
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：蒼羽
| 作成日時：2020年2月10日 8時
