Mid night ページ10
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屋敷の主人も他の使用人たちも眠ってしまって、植物だけが月光に照らされて生き生きとする夜。
私とそらるさんは、屋敷の戸締りをしていた。
と言っても、窓は他の使用人たちが閉めてくれたので、エントランスの扉の鍵を閉めるだけ。
それも終わって、欠伸をするそらるさんを横目に見ながら各々の部屋に向かう。
『それではそらるさん、お休みなさい』
そ「ん、Aもおつかれ。お休みなさい」
そう言ってそらるさんと別れようとすると、「……ねぇ、」と呼び止められた。
不思議に思って振り向くと、そらるさんは心配そうにこちらを見ていた。
深海のような深い碧色の瞳の中の光が、ゆらりと揺れる。
そ「えっと……その、大丈夫?」
『何がですか?』
そ「何がって、だって今日は………」
そらるさんは言いかけて、やめた。
私は、そらるさんが何を言いたいのか、何を心配してくれているのか分かっていた。
………でも、貴方に、他人に迷惑をかけるわけにはいかないから。
そらるさんは何かを察したのか、少し寂しそうな表情で笑って、もう一度私に「おやすみ」と言った。
私は何も言わずに軽く頭を下げて、そらるさんが自分の部屋に入っていくのを見届けてから、私も部屋に入った。
ぼんやりとした頭で、寝巻用のゆったりとした白のワンピースに着替える。
ウィッグも外して、腰あたりまである無駄に長い髪を零した。
力なくベッドに倒れる。
少し軋んだけど、衝撃は全くなかった。
うつ伏せのまま、枕に頭をこすりつける。
今夜は、寝れそうになかった。
気を抜くと、涙が出そうになって、目元が滲んでくる。
やだ、やめてよ、隣の部屋そらるさんだし、泣いたらバレちゃうじゃん。
慌てて起き上がって、目元を拭った。
それでも、少ししたらまた、目頭が熱くなってくる。
ここで泣くのは非常にまずい。どこか人のいないところに行かないと。
そう思って、ぱっと頭に浮かんだのは、ちょうど私の部屋の窓から見えるこの屋敷の薔薇園だった。
四季折々の、様々な薔薇が咲いている。
こんな真夜中だから誰もいないだろうし、とりあえずそこに行って気持ちを落ち着かせよう。
私はベッドから立ち上がり、部屋の少し大きな窓の扉を開け、そこから外に出た。
夏の夜の、涼しい風が頬を撫でる。
×月×日、5年前の今日。
私の両親は交通事故で死んだ。
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kne(プロフ) - 続き楽しみです。 (2021年9月14日 0時) (レス) id: ee34aec55d (このIDを非表示/違反報告)
れい(プロフ) - リスさん» リスさんなんですね!私はこたぬですが基本的に箱推しです (2021年7月4日 12時) (レス) id: 79c7e82e9a (このIDを非表示/違反報告)
れい(プロフ) - ぱるむさん» お返事が遅くなってしまい申し訳ありません汗 ありがとうございます! 今リメイク版を作成している最中なので、もうしばらくお待ちいただけると嬉しいです (2021年7月4日 12時) (レス) id: 79c7e82e9a (このIDを非表示/違反報告)
れい(プロフ) - ランデブーさん» ありがとうございます!そう言ってもらえてとても嬉しいです (2021年7月4日 12時) (レス) id: 79c7e82e9a (このIDを非表示/違反報告)
リス - 私も志麻リスです! (2021年6月24日 22時) (レス) id: 016461b9aa (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:よる | 作成日時:2020年7月30日 16時