お前のそばにいたい ページ31
『聞いたよ、二人で住んでるんだってね』
「…そうか」そう呟いた市橋くんは淡々と語り出した。
「俺、両親の…顔も知らねえし。死んだってばあちゃんくらいしか悲しまねえからいいんだよ」
『良くないよ。…私が、悲しむ』
市橋くんの目が私を捉えた。
たったそれだけで私の心は大きく反応した。
( 何、なんだろう…これ )
『ありがとう、市橋くん』
きっとどの言葉よりも最初に伝えなきゃいけないこと。
" ありがとう "
たった一言で言えてしまう言葉だけど、
私はその言葉に何重のも意味を重ねた。
＿＿＿＿＿＿＿＿ 助けてくれて、ありがとう。
＿＿＿＿＿＿＿＿ 笑ってくれて、ありがとう。
＿＿＿＿＿＿＿＿ そばにいてくれて、ありがとう。
＿＿＿＿＿＿＿＿ 出会ってくれて、ありがとう。
照れたように私から目を逸らすと「…まあ、お前が無事で良かったわ」と呟いた。
「ていうか全然死なねえな、俺。まだ生きてんのか」
『生きてるってことはさ、まだ生きてないといけない理由があるんじゃないかな』
「ああ？」
『やりたいこと、また見つかるよ』
「見つかんねえよ、んなもん」
『私はあるよ、市橋くんとやりたいこと。まだまだたくさん』
「…は？」
微笑みながら市橋くんの目をじっと見つめた。
もう、間違えたくなんてない。
ちゃんと自分の気持ちを、伝えないといけない。
…もう、後悔なんてしたくないから。
『前に作った料理だってもっと上手く作れるし、あの海だってまた、一緒に行きたい』
「…っ、」
『聞きたいことだって、伝えなきゃいけないことだって、いっぱいあるから』
だから、
だから、
『もう二度と、あんな真似しないで』
『市橋くんは、終わった人間なんかじゃないよ』
市橋くんの目が大きく開いた。
羨ましくなるくらいパッチリした目で、ただ私だけを真っ直ぐに見つめる。
何度か瞬きをした後、天井で光る電球を見つめて「あったわ、一つやりたいこと」と告げる。
『え、何？』
嬉しくなった。
私の気持ちが伝わったんだと、そう思ったから。
少しでも、ほんの少しだけでもいい。
市橋くんの力になれたら、生きる希望になれたら、それでいい。
市橋くんはまた私を見つめると後頭部に手を置いてギュッと引き寄せた。
驚きのあまり咄嗟に身を引こうとしたけど、ビクともしない。
全身に怪我をしているのにどこにそんな力があるんだろう。
「お前の、側にいたい」
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 807人がお気に入り
お気に入り作者に追加
この作品を見ている人にオススメ
この作品を見ている人にオススメ
「オリジナル」関連の作品
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
狛犬のリサ(プロフ) - あーあ、やっぱり夢主はトビオじゃなくて市橋かぁ…けっ…作者は最高でドラマも最高だったし…トビオ落ちだったらもっともーっと最高だったのになぁ (2019年1月22日 2時) (
レス) id: 3d96b1b6a9 (このIDを非表示/違反報告)
みい - いつも楽しみにしてます！トビオおち分岐ありがとうございます！トビオと結ばれて欲しいと思ってたので嬉しいです (2017年9月27日 16時) (レス) id: 788e2e4591 (このIDを非表示/違反報告)
はる坊(プロフ) - この前はトビオオチが見たい！とコメントさせていただきましたが、正直私もどっちも見たいです。どちらも書いてくださるというお話すごく嬉しいです！！頑張ってください！！ (2017年9月2日 22時) (レス) id: 0e6de27daf (このIDを非表示/違反報告)
前田ちかね(プロフ) - 市橋くんオチがいいです！ (2017年9月2日 22時) (レス) id: f96c4eb485 (このIDを非表示/違反報告)
emu(プロフ) - 今日の回は昼顔っぽくて面白かったです！めっちゃ好きですこの感じの＞ω＜ (2017年9月2日 1時) (レス) id: 7e03b267ff (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：佐伯
| 作成日時：2017年8月8日 18時
