110 ページ12
今から三十年前の冬。
身勝手な大人たちによって俺と智の人生が入れ替わってしまった。
「えっ、えぇっ・・・マジか」
それはにわかには信じられない話で、今はまだ頭の整理が追い付かない。
「驚くのも無理ないよ。
実際、俺もそうだったから」
だからってこの話が全くのデタラメとも思えない。
どう表現していいか分からないけど、とにかく不思議な感覚だ。
「本当は翔ちゃんが岡田智で、俺が櫻井翔として生きるはずだったんだ」
「ちょっと待てよ。
俺、めっちゃ混乱してるんだけど」
「だよね・・・」
「俺が政治家の息子？」
「うん」
「あの外務大臣の？」
「うん」
「マジか・・・」
今まで三十年間、一般家庭の子として平凡に生きてきただけにこの衝撃は凄まじい。
俺が智で、智が俺で・・・。
あーーーーーっ、もう！
頭がこんがらがって、訳分かんねえ！！
「このこと、智の父ちゃんは知ってんのか？」
「うん、知ってる。
俺が話した」
「父ちゃん、何て？」
「くだらん、の一言で片付けられたよ」
智は悲しそうに眉を下げてそう言った。
「でも普通は自分の子が実は赤の他人だったって知ったら！」
「あの人はね、派閥争いで自分が優位になることしか頭にないんだよ。
だから自分の思い通りに動いてくれるなら、俺が誰の子だろうが構わないんだと思う。
要は俺はただの駒に過ぎないんだよ」
「そんな・・・」
「それに、このことは誰にも口外するなって釘を刺されて。
ちょっとしたスキャンダルでも政治家にとっては命とりだからね。
自分は悪びれることなく愛人なんて作ってたクセによく言うよって思った」
大きくため息を吐き、智は肩を落とす。
「そんなことがあったんだな・・・」
俺は両親に大切に育ててもらったから、智が気の毒としか言いようがなかった。
しかし裏を返せば、自分が歩むはずの人生でもあった。
その途端、居た堪れない気持ちになった。
「父親にまともに取り合ってもらえなくて・・・あの時は正直ヘコんだよ。
別に事実を公にしてほしいとか、病院を訴えてほしいとかそういう訳じゃなくて。
ただ・・・なんて言うか・・・」
「俺は分かるよ。
智は父ちゃんに寄り添ってもらいたかったんだよな？」
「うん・・・そうだね、きっと」
涙目になりながら智は頷いた。
その表情に思わず胸が潰れそうになる。
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 628人がお気に入り
お気に入り作者に追加
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
きよ(プロフ) - なつさんお疲れさまです。智くんと翔くんの生い立ちもですが、こんな用意周到に計画を立て実行する智くんに驚きです。でもやっぱり翔くんと出会ったら変わりますよねぇ。ましてやヒーローですもんね。智くんの心の変化を楽しみに待っています。 (2021年10月3日 8時) (
レス) @page24 id: 6c6ffed641 (このIDを非表示/違反報告)
みい(プロフ) - なつさんこんにちは！お言葉に甘えて早速きました！更新ありがとうございます！今回の智くんになんだかすごく安心しました^ ^計算だけでなくこれからは本当に翔くんと友達になりたくなるのかなって。この翔くんの登場には誰だってドキドキしますよねー‼︎^ ^ (2021年9月27日 14時) (レス) @page24 id: 4b882d58ca (このIDを非表示/違反報告)
なつ(プロフ) - はるさん» はるさん、こんばんは！切れ者の智くんですがこれから計画を実行することになります。でもそこには思わぬ落とし穴もあって・・・。いよいよ最終局面です。二人の行く末までどうかお付き合い下さいね！ (2021年9月26日 22時) (レス) id: 42fc626692 (このIDを非表示/違反報告)
なつ(プロフ) - みいさん» みいさん、こんばんは！コメント大歓迎ですよ〜。やる気が出るし励みにもなりますから♪感想を読んで次回の参考にすることも多々あります。本当にいつも熱心に読んでもらえて感謝感激です。最後までどうか見届けて下さいね。 (2021年9月26日 22時) (レス) id: 42fc626692 (このIDを非表示/違反報告)
はる(プロフ) - なつさん、こんにちは😃なかなかの切れ者智ちゃんですね。２人の心情が複雑になるんだろうなぁ…。楽しみです！ (2021年9月25日 14時) (レス) @page22 id: 6cd0f843d6 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：なつ
| 作成日時：2021年8月23日 23時
