57 ページ8
『ガッシャーン』というけたたましい物音で飛び起きた。
それは火曜日の早朝。
まだ日が昇る直前の出来事だった。
「どうしたっ！？」
その物音はキッチンの方から。
一も二もなく駆け込む。
そこには青ざめた顔をした翔くんが突っ立っていた。
「翔くん、どうしたの！」
「えっと・・・」
彼の足元は水浸し。
そのすぐそばにはヤカンが転がっている。
「どうしたんだよ・・・」
「水を・・・えっと・・・あったかい水・・・」
「お湯のこと？」
翔くんはオドオドしながら頷く。
「お湯を沸かそうと思ったの？」
「うん・・・。
そしたら落としちゃって」
「そっか・・・ケガはない？」
「うん・・・」
「良かった」
俺はすぐにタオルを取り、翔くんに「これで足を拭いて」と渡した。
もう一枚のタオルで俺は濡れた床を拭く。
「ごめんなさい」
「いいんだよ。
でも、お湯を沸かして何しようとしてたの？」
「えっと・・・それは・・・大野くんが朝よく飲んでるのを・・・」
「ああ・・・コーヒーのこと？」
「うん・・・」
「コーヒーを淹れてくれようと思ったの？」
「うん・・・仕事に行っちゃう前に・・・」
翔くんはどうやら俺の出勤前にコーヒーを淹れてくれようとしていたらしい。
「でも一人で火を使うのはまだ危ないから・・・」
「だよね」
「でも嬉しいよ。
ありがとう、翔くん」
彼を怖がらせないように努めて優しい声で言った。
そして翔くんの頭を軽くポンポンと叩くと、彼はようやく安心したような顔をした。
事故で記憶を無くしてからというもの、翔くんは不安なことがあると、極端にオドオドするようになった。
焦ったり動揺したりして、うまく言葉が出てこないことだってしばしば。
医師によればこれも後遺症の一つなのだそう。
そんな時は無理に急かすのは厳禁。
責め立てるなんてもってのほかだった。
それにしても翔くんが俺のためにコーヒーを淹れようとしてくれてたなんて・・・。
淹れ方なんてとっくに忘れてしまったはずなのに。
考えただけで切なくなる。
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 877人がお気に入り
お気に入り作者に追加
この作品を見ている人にオススメ
この作品を見ている人にオススメ
「嵐」関連の作品
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
なつ(プロフ) - 花咲*さん» 花咲*さん、おはようございます！いつもご愛読ありがとう♪しかもいつも感情移入して読んでもらえて感謝感激！この辺で泣いてちゃダメですよ〜！まだ泣き所はご準備してますから。どうぞお楽しみに！！ (2019年10月6日 7時) (
レス) id: 3dbb952a56 (このIDを非表示/違反報告)
花咲*(プロフ) - ｡ﾟ(ﾟ´Д｀ﾟ)ﾟ｡こんな別れ方を二人はしていたのかと思うと切なくて切なくて泣けてきます。なつさんのお話で泣いてばかりですがやっぱりなつさんのお話大好きなので読んでしまいます！その後翔君どうやって生活していてのかも気になるしこの後の展開が楽しみです。 (2019年10月5日 15時) (レス) id: fe81ade62f (このIDを非表示/違反報告)
なつ(プロフ) - まったりやさん» まったりやさん、こんばんは！切なさいっぱいの過去がとうとう明るみに( ﾉД`)これからまた現在編へ戻り、掛け違ったボタンの行方をお楽しみ下さい。ただ今、移行準備の真っ最中です。しばしお待ちを！ (2019年9月11日 1時) (レス) id: 3dbb952a56 (このIDを非表示/違反報告)
まったりや(プロフ) - なつさん、お久しぶりです。切なさと切なさと切〜な〜さと〜♪…あぁ〜大変な過去の出来事ですね〜！お互いの罪悪感と遠慮からなのか、ボタンの掛け違い心のすれ違い…。でも、ここからの展開が、なつさんの作品のクセになるところ。続きを楽しみに待っています。 (2019年9月9日 13時) (レス) id: 6d900dafd3 (このIDを非表示/違反報告)
なつ(プロフ) - smsさん» smsさん、こんばんは！ご無沙汰してます♪とうとう智くんやってしまったよ（泣）この裏切り行為が後の現在編にどう繋がっていくのか、お楽しみに〜！翔くん、記憶を無くしたままも辛いけど、記憶が戻っても辛いね(´；ω；`) (2019年9月3日 23時) (レス) id: 3dbb952a56 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：なつ
| 作成日時：2019年6月11日 0時
