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そう言えば、翔くん。
さっき一人でワイン二本をラッパ飲みしてたんだっけ・・・?
すっかり妄想ストーリーの主人公になりきっていた俺はそんなこと完全に忘れていた。
・・・これから俺はどうすりゃいい?
「翔くぅん・・・」
半分開いたトイレのドアから中を覗くと、彼は便器を抱えるようにしてゲーゲー言っていた。
「・・・大丈夫?」
ひざまずいて翔くんの背中をさすってあげるも、彼は便器の中に顔を突っ込んだままフルフルと首を振る。
その姿は見るも無残。
あれ・・・?
これ、本当に翔くん??
強引で強気な俺の好きな人は一体いずこへ・・・?
「だずげでぇ・・・ざどじぐん・・・」
彼が俺に助けを求める。
「えっと、水飲む!?」
彼はウンウンと頷く。
なんか違うんだよなあ・・・と小首を傾げつつ小さな冷蔵庫の中からミネラルウォーターを取り出し、彼に差し出す。
「あり、がと・・・」
翔くんは受け取った水をゴクゴクと一気飲みした。
そんな彼を横目で見ながら俺は思う。
今の翔くん・・・すっげーヘタレ。
百年の恋も冷める瞬間って、まさにこういう感じなのだろう。
「しっかりしろよ、翔くん」
「うん・・・」
「まだ気分悪い?」
「うん・・・」
「マジか・・・」
まさかこんな展開が待っていたとは・・・。
優香さんの筋書きから大きく逸脱してる。
本当はこの後、熱い抱擁を交わして、深いキスをして、そして溺れるようなセッ・・・。
・・・もう・・・どうでもいいや。
「駆け落ちって意外と難しいんだな・・・」
思わず呟く。
「何か言った?ざどじぐん・・・」
「いいや・・・なんも・・・」
「だずげで・・・」
「はいはい・・・」
「おではきっともう永くない・・」
「へぇ・・・そりゃ大変だ・・・」
冷めた気持ちで適当に相槌を打った。
その日、翔くんは一晩中、便器を抱えて過ごした。
俺はそのすぐ後ろで体育座りをしてウトウトしていた。
時折、思い出したように彼の背中をさすりながら・・・。
決して劇的な駆け落ちではなかったけど・・・。
「ま、いっか・・・」
結局のところ、カッコいい翔くんも情けない翔くんもどっちも好きなんだよ、俺は。
うん。
そういうことにしておこう。
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紅葉(プロフ) - 初めまして!どストライク過ぎて一気読みしてしまいました!いい意味で胸が締め付けられました。凄く凄く面白かったです!パスワードの件拝読させて頂きました、心を痛まれたのにも関わらずお話を完結させて頂いたこと心より感謝申し上げす!本当にありがとうございます! (2020年4月13日 1時) (レス) id: d922c6ab1d (このIDを非表示/違反報告)
なつ(プロフ) - smsさん» smsさん、おはようございます!こちらこそいつも熱心に読んでもらえて嬉しいです。ありがとう♪このオハナシは色々あったけどなんとか完結出来て良かった☆smsさん始めたくさんの方が励ましてくれたからだよ〜!いつも励みになってます。ありがとう☆ (2018年12月23日 4時) (レス) id: 3dbb952a56 (このIDを非表示/違反報告)
sms(プロフ) - そして、「オジギソウ」も楽しみに待ってます(^^)ちょいと暇できたら、なつさんのリストに行って全部読みたい!「青シリーズ」←本当に好きだわ(笑) (2018年12月13日 9時) (レス) id: 32f4ade16c (このIDを非表示/違反報告)
sms(プロフ) - なつさ〜ん!完結おめでとうそしてお疲れ様です。本当に今回のお話も、涙ぐむ箇所あったよ。毎回素敵なお話読ませてもらってありがとう♪ふたり幸せになって良かった。途中、なつさんも色々あって大変だったのに、このお話を完結してくれて、ありがとうです。 (2018年12月13日 9時) (レス) id: 32f4ade16c (このIDを非表示/違反報告)
なつ(プロフ) - はるさん» はるさん、こんにちは!やっと完結です。紆余曲折あった二人ですが、やっぱり最後は幸せじゃなくちゃね〜♪これから貧乏暮らしでも仲良くやっていくのでしょう。モイスチャー成分配合。手汗を書いた際は是非!! (2018年12月12日 11時) (レス) id: 3dbb952a56 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:なつ | 作成日時:2018年10月19日 9時