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452. ページ30

「ホンマに…会いたかっただけなんか?」





俺から視線を外し
頬を包んでいた手が離れる



その表情が
酷く泣きそうで


抱き寄せて髪を撫でた





「言いたくないなら言わんでええよ

 無理に聞き出したいわけやないからな」





彼女の腕が背中に周り
体がピタリと密着すると


俺より早い彼女の鼓動が伝わってきた





「1つだけ…お願いがある」

「俺が出来る事なら何でも聞いたる」





彼女からのお願いなんて
ホンマに片手で数えられる程しかない

欲しいものがあれば買うたる
行きたい場所があるなら行ったる



そんな風に思っていたのに





「A頑張れ、大丈夫って言って?」





彼女からのお願いは予想とは全く違った





「何を…頑張るん」

「明日の午後…すごく痛い注射をするから」





病院にはよぉ行ってるから
注射とか点滴とか慣れてるんやと
勝手に思ってた

そんなの慣れるわけ…ないのにな





「そんなに痛いん?」

「薬が入ってくる時がすっごく痛い
 思い出しただけで怖い」





なんの薬なんやろ

目を合わせて頬を撫でる





「頑張れA
 大丈夫や、怖くない」

「…………やだ」



そう言って唇を尖らせる



「ンフフフw 嫌やなぁ…俺も注射嫌いや」

「明日…サボっちゃおかなw」

「悪いやっちゃでw
 でも…注射せんでも大丈夫なん?」

「大丈夫じゃない?
 どうせ…効かないよw」





そう言った彼女は寂しそうに微笑む


確かに彼女の持病は
現代医学では完治は不可能


でも回復したら
また潜れるとも先生は言ってた





「元気になったら、また潜れるんやろ?
 
 連れて行きたい場所があんねん
 めっっっちゃキレイやで!」





励ますつもりで言った言葉に
返事をすることはなく
静かに俺にしがみついたかと思うと

小さく鼻を啜る音が聞こえた





「…A?」





顔を見ようと肩を押しても
彼女は相変わらずしがみついたまま





「照史…怖いよ…怖い…」





こんな風に震えながら泣く原因が
注射1本のワケがない



一体なにがあった

頑張れって何を



考えても考えても分からない
聞く根性もない俺




泣きはらす彼女を抱き上げてベッドへ運ぶ




そっとキスを落としてから
世界一幸せな場所やと言っていた
腕の中に閉じ込める




「大丈夫、大丈夫や 怖くない」




こんな言葉で
ほんの少しでも不安が取れるなら
何度でも言うからな

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作者名:向日葵 | 作成日時:2022年6月8日 10時

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