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貴方.
『……正門くんはいっつも余裕なんよ。年上のお兄さんって感じして、悔しいねん』
正「ええ？年上のお兄さんやん、正真正銘」
年齢だけで見たら皆そうやけど、そうじゃなくて……いつになったら「大人の女性」として見てもらえるんやろか。そもそもこういうことを考えている時点で、正門くんからしたら、子供っぽいんかもしれん。
実年齢より上に見られるはずなのに、彼にとって私はいつまでも妹のような存在で。進展したいとかそういう気持ちはないけれど、子供扱いは嬉しくない。
『ん〜……もうええよ、いつか私が大人っぽい素敵な女性になったるから、その日まで待っといて！』
正「……素敵な女性ねえ」
『あ、無理やろとか思ってんちゃう？絶対ビビらせたるからな』
手始めに、もうちょっとメイクを覚えて……ほんの少し大人っぽい服なんか着ちゃったりして。形から入りたがるのは悪い癖やと思うけど、これ以外に良いアイディアが思いつかんのよね。大ちゃん辺りに聞いてみるかあ……
自分を磨き上げる時間は、割りと好きだったりする。それこそ片想いの醍醐味よね。雑誌の質問コーナーの、好きなタイプ……とか、めちゃくちゃ参考にしちゃってる。
正「まあでも、寂しいなあ、俺は」
『寂しい？何で？』
正「Aがそれ以上可愛くなっちゃったら、もっとたくさんの人がAのこと好きになってまうやろ？」
『……え？』
ふわり、と爽やかな匂いがした。よくある制汗剤の、シトラス系の香り……男の人っぽいって言えるほど経験はないけれど、良い意味でのシンプルさが、男の人っぽく感じられたんだと思う。
後ろから抱き締められるのは初めてのことで、特に何の反応もできないまま、ガチガチに固まってしまった。「正門くん？」と彼の名前を呼ぶだけで精一杯で、きっと今の私はそれはそれは間抜けな顔をしているんだろう。
正「……もうちょっとだけ、俺の妹でおってよ」
『へ……そ、れは、どういう、』
正「ん〜？……どういう意味やろね」
何かを答える前に、彼は私から離れていった。ドキドキとうるさい心臓を抑えつけようと必死になっていると、「楽屋戻ろか」と優しく笑いかけられる。
『あ、うん……』
正「明日からも公演あるし、正門タクシーで行くで？」
『……何やのそれ』
正「さっ、ちゃんと掴まっとき」
全20公演、ほんまにお姫様抱っこで運搬されるとは……
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