愛をかぞえて《 Ryosuke.Y 》

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貴方.



『……何でそう思うの？』

「そりゃあ、……俺と出会うよりも前からそばにいた人に、勝てるわけないでしょ」




私の目にかかった前髪を、人差し指で撫でるように整えてくれる。さっきとは打って変わって、ひんやりと冷たい指先に、心臓がどきりと音を立てた。

こんなにもかっこよくて、可愛らしくて、綺麗で……おまけに中身まで素敵な完璧な人なのに。時々びっくりするほどに自信をなくして、不安な顔をして私を見つめるときがある。私は涼介くんから離れたりしないのになんて、そう簡単に信じられないんだろう。




『……それでも、私はここにいるよ』

「ふふ、……仕事だから？」

『ん〜……求められている限りは？』

「模範解答だなあ」




「偉いね」と私の頭を撫でた涼介くんは、また一段と優しく抱き締めてくれる。彼の甘い香りが鼻を掠めて、なぜだか無性に胸の奥が苦しくなった。こんなにも近くにいるのに、本質には触れられないような……そんな虚しさ。

私は涼介くんの、今にも壊れそうなほど脆い部分を必死で繋ぎ止めているだけに過ぎないのだと、何となくそう思った。




「心配だったんだよ。Aはまだ若いし、ずっと普通の大学生だったでしょ？」

『うん、』

「俺が普通の幸せとか、自由とか、奪っちゃったんじゃないかって」

『……そんなの、』




「涼介くんが気にすることじゃないよ」

そう伝えれば、「そうかな」と緩やかに笑う声。楽しかったり、嬉しかったりしたときの笑い声なんかじゃなくて、やっぱりどこか自嘲気味だと思った。出会ったときから心に引っかかる、そんな笑い方。




「……だめだね、そんな風に言われたらさ。俺、もうAのこと離してあげられないかも」

『いいよ、離さないで』

「そんなこと言ったら本気にするでしょ」




お互いが、お互いの上辺だけを見ているような。

深いところまで知ることが出来ず、それでもそばにいてほしいともがく。苦しくて仕方ないけれど、そうするしか出来ないと知っているから。心の底から好きになってもらうことは不可能なのだと、住んでいる世界が違うと……分かっていたのに。


「涼介くんは好きな人いないの？」なんて、喉元まで出かけていた問いは、空気に触れることなく消えていった。

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