自分に厳しい人だから ページ6
向井side
A「あれじゃ、観に来てくれた人の心は
動かせないです」
Aくんの言葉を聞いて、
自分が大事なことを忘れてたのを思い出した。
ただ、稽古についていくのをゴールにしてた。
そうじゃない。
俺が、
俺たちが、やらんなあかんのは
観に来てくれた人に、
最高のパフォーマンスを届けることやのに。
A「ここで休んで、中途半端なものを
観に来てくれた人に見せるのは嫌なんです。
このタイミングで体調を崩したのは
俺のミスです」
あんな高熱で、座ってるのもしんどいはずやのに
Aくんは立ち上がって頭を下げた。
A「本当にすみませんでした。
けど、ここで休むわけにはいかないんです。
本番でミスったら、きっとあのとき
休んだからだって後悔する。
稽古、参加させてください」
滝沢「っ……」
滝沢くんは、苦い顔を浮かべていた。
向井「丈、行こう」
藤原「え？ ちょ、待てって！」
丈の声を背に、自分の甘さを噛み締めていた。
Aくんは“天才”やから。
そんな一言で片付けていい人なんかじゃ
なかったのに。
体調が悪くても妥協を許さずに
作り上げてたからこそできてたのに。
勝手にそんな浅い言葉をつけて
圧倒的な差から逃げてたのは俺の弱さ。
稽古場に戻って、Aくんのバックに
ついてたメンバーを集めた。
向井「Aくん、俺らには言わんかったけど
体調悪いらしい」
そんな素振り一切見せへんかった
Aくんやったから、
みんなびっくりしてた。
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作者名：くらげ
| 作成日時：2021年10月17日 6時
