【男主】涙でにじむ約束は (ページ30)

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今だけはページ30

Aside

あんなことを言われた次の日でも
朝はいつものようにやってくる。

昨日の出来事は全部夢だった。

そう思いたいのに、ズキズキ痛む頭が
これが現実なんだって思い知らせてくる。

重くてだるい身体を動かして
カバンに忍ばせた薬を手に取った。

昨日の夜から何も食べてない。

さすがにこれで薬だけ飲むのはダメだと思って
冷蔵庫から飲むタイプのゼリーを取り出して
胃に流し込んだ。

薬を飲むと、ほんの少し痛みが
和らいだ気がした。

A「行くか……」

何ひとつ現実を受け入れられていない。

みんなにどう言えばいいのかも
一晩考えても分からなかった。

それでもなぜか無性に
みんなに会いたかった。

会えば、またいつもみたいに
笑える気がしたから。

それで未来が変わるわけでもないのにさ。

いろいろ悩んでも、時間は進む。

集合時間の近づいた楽屋の扉に
手をかけた。

中からみんなの笑い声が聞こえてくる。

もし自分の状況を話せば、
どうなるだろう。

くだらない話をして、
馬鹿みたいに笑いあって、

ただ前だけを見て進むなんて
できなくなるかもしれない。

いや、きっとできなくなる。

きっと、みんなに考えられないくらいの
ショックを受けさせる。

伝えなきゃいけないのは
分かってる。

けど、今はまだ、
この大切な空気を手放したくなかった。

ごめん、みんな。

もう少しだけ、
黙っていさせてほしい。

A「おはようございまーす！」

精一杯の明るい声で、楽屋の扉を開けた。