落下開始 ページ1
最初に視界に写ったのは白と青のコントラスト。
身体を吹き抜ける烈風。
はためく髪と衣服。
そう、私は今、落下をしている。
摩擦熱は生じていない。
呼吸は問題なく行える。
背後には無数の星が煌めく真っ暗な宇宙。
目の前には鮮やかな青と純白の球体。
ふと、思い出した。
「地球は青かった」
──ユーリイ・ガガーリン──
世界に広く知られている言葉の意味をようやくわかった気がする。
青に吸い込まれていく。
白い雲が横を通りすぎていく。
近付く地表。
脈打つ心臓。
勝手に思考が動く。
地面に衝突するシミュレーション。
恐怖から血の気が引く。
指先が冷たい。
私は、耐えきれず、目蓋をきつく閉じた。
真っ黒な中で、その時を待つ。
身体が叩きつけられる衝撃を。
しかし、
「ぐっ！？」
怯えていた衝撃の代わりに、私ではない呻き声が聞こえた。
恐る恐る目を開くと私はガラクタの山の上。
「っ！え、え、無事、私、無事だぁ！」
何故かはわからないが、助かったのであればそれでいい。
「そうか、無事なら、とっとと俺の上から退け」
「...あ」
私の下に一人の少年。
あぁ、呻き声は彼か。
「って、わ、ごめん！大丈夫？」
「つっ...いってぇ...」
少年は私が直撃したであろう腰を擦りながら立ち上がる。
「えっと、本当にごめんなさい」
「...」
明らかに警戒されているというか、すごい睨まれてるな。
改めて少年を見ると、顔はやつれ少し痩けていた。
「はぁ、お前、新参か？」
「新参？私は...」
私は───A───。
名前はわかる。
名前しかわからない。
「なんだお前、記憶がないのか」
「さっきまでは覚えてた気がするんだけど」
「ぶつかった衝撃でなくしたと言いたいのか？」
棘のある台詞。
彼の目は「なくしたとしたら俺の方だ」と言いたげだ。
まぁ、ごもっとも。
「ここは流星街、何を捨てても許される」
「リュウセイガイ？」
「あぁ、つまり記憶はなくともお前は捨てられたわけさ」
少年の言葉に辺りを見回す。
ガラクタの山と、遠くには建物が密集した街らしきものが見えた。
「お前どうする？」
「？」
「これからどうするかって聞いているんだ」
「...わからない」
「なら俺と来い、しばらくは俺が世話してやる。だがそのあとは自分で勝手にしろ」
「ここに他人を助ける余裕はない」と真っ黒な瞳が向けられた。
先程までは青かった世界は赤く染まり始めている。
「選ぶのはお前だA」
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作者名：００ | 作成日時：2019年6月24日 13時
