48 ページ48
「あはー今から龍華さんのところに行ってわざと転ぼっか?
って交渉して来てもいいんすよ、オレは」
夜陣はこぶしを握りしめて、憎しみを込めるかのように樹を見据えた。
「お前は、壊れてる」
「はいーだから、巻いてくださいよ、オレのネジ」
そして、始まったスウェーデンリレー。
第三走者夜陣にバトンが渡るまではトップは夜陣のチームと龍華のチームが拮抗する速度で走っていた。
夜陣は第三走者として爆走してマージンをとり、アンカーの樹が不自然に減速しない限り一位確定の状況を作ってしまう。
樹はつぶやく。
「ホントにわざと転ぼっかなー。
自分がかっこ悪く見えるとか、ここで総合優勝が決まるとか、どうでもいいんだよねー」
夜陣はバトンを渡す瞬間、諦めたように
「勝ったらコーヒーメーカー買うぞ」
と樹に囁く。
瞬間、目をカッと見開き、全力爆走して行く樹。
一生懸命走る樹はフォームも完璧で無駄というものがなく、誰の追随も許さないように見えたが、あまりにも必死過ぎて、ゴール十メートル前で本当に転倒してしまう。
ずざざざざっ!
と顔面からスライディングし、コースアウトしてしまう樹。
あっさり抜かして行く龍華。
龍華はそのまま一位でゴールし、
「よっしァアア!」
と吼えた。
落胆する夜陣を始め、樹とおなじチームの生徒たち。
夜陣はつかつかと樹に近寄った。
俯いて目を合わせられないようすの樹のトゲトゲ頭を掴んで無理やり上を向かせると、容赦なく言い放った。
「お前の弱点はずばり本番だな!
全く、使えん!
使えんよ、樹!」
「うわ、本気で走っただけに悔しいっす。
夜陣さんからの無能判定とコーヒーメーカー欲しかった……」
そう言って、本番弱点の不名誉なレッテルを貼られた樹はその場に倒れ伏した。
無表情に樹を踏んづけようとする夜陣を慌てて制すせいかや柏手たち。
すると黒川が現れた。
踏んづけようとするのを止めはせず、つまらなそうな顔をしている。
「まあ、樹の本番が夜陣並みに強ければすでにプロでデビューしてるねぇ。
樹都織は才能があるよ」
と意味深に言い残して去って行った。
せいかは
「黒川先生って樹くん推しよね。
でもどんな才能があるって思ってるんだろ?」
と呟いた。
6人がお気に入り
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名:ルスブ | 作者ホームページ:http://twitter.com/rusbsss
作成日時:2022年9月9日 10時