30話 ページ30
「じゃあまた今度な」
「うん、それまでに付き合えると良いね」
「うっさいわ」
最後の最後までうるさいやっちゃな、と言いながら駅で別れる。
今日は楽しめたし、フツーに奢ってくれたし。
やっぱあいつスマートでええやつやな。
スナを心の底から称賛しながら家路につく。
ゆっくりやってけばいいよ、と言ったスナの言葉を思い出した。
…そうやんな、ゆっくり、アタシなりに頑張ってやってみて、それがあかんかったらスナに泣き付いたらええよな。
幾分軽くなった心。
よし、今日の夕飯は豪勢なやつにしたろ。
そう思って駅前のスーパーに寄る。バーゲンセールやっとって無駄に多く買ってもーたけど、まぁ全部宮の胃袋に入るし、ええよな?
ほぼ袋を引きずる感じで歩いていると、目の前に見覚えのある車が停車する。
……あれって、間違いなく宮の車やんな。え?こんな時間に何してんねんやろ。
話しかけてもなんもおかしないし、別にやましいこととか無いはずやのにピタリと、まるでロボットのゼンマイが切れたように足が止まる。
電灯の灯りが宮の車のボディーに映って鈍く光っとるんがやけに目を引いて、助手席のドアから目が離せへん。
誰か…おるような───────…?
アタシがジッとそのドアに目を凝らした時、ゆっくり、まるで見せつけるように扉が開いた。
中から出てきたんは、可愛らしく髪も巻いて、小柄で華奢な女の子らしい服装の子。
「治くん、今日はありがとう!しかも駅まで送ってもらって…」
「ええねん。ほな気ぃつけて帰りや」
…“治くん”か。あっちの方がよっぽどかわええな。
アタシなんか昔からの癖で未だに“宮”って呼んどるし。
ドッと疲れが押し寄せたような気がした。
彼女…ではないやろうけど。もし彼女やったら、アタシと一緒に住むんはおかしいし。
でも好きな人できたんやったら言ってくれたらええのに。
女の子が改札へ向かう階段を上がって行ったのを見届けて家に向かって歩き始めると、車の助手席のドアを閉めた宮とバッチリ目が合った。
「Aやん。今帰り?乗っていきや」
「…おん。そーする」
“さっきの子、誰?”
そんな質問する勇気、微塵もないわ。
だって、それで照れられたらアタシどうすればいいん?
でもさ、これだけは言わせてや。
「…宮さ、アタシのこと好きやないんやったら、優しくせんとって」
暫くの沈黙。当たり前や、突然こんなこと言われたら。
車のエンジン音に耳を傾けていると、いやに心地良い声が静かに耳に入ってくる。
「俺Aのこと好きやで」
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松々先輩(プロフ) - のんさん» ありがとうございます!!最近私生活も落ち着いてきたので、今日更新予定です! (8月5日 17時) (レス) id: 480ed93775 (このIDを非表示/違反報告)
のん - 久しぶりにこの神作品開いたけどやっぱり神作!!主様のペースでゆっくり更新続けて欲しい!!まぢ応援してます!無理は禁物!! (7月31日 11時) (レス) @page45 id: 7e78e362e0 (このIDを非表示/違反報告)
松々先輩(プロフ) - 雷さん» 大丈夫です。ありがとうございます頑張ります! (2022年8月12日 10時) (レス) id: 0b2f636a57 (このIDを非表示/違反報告)
雷 - 松々先輩『ありがとうございます頑張ります』が癖になってますけど大丈夫ですか? (2022年8月12日 10時) (レス) @page5 id: 1c759860fa (このIDを非表示/違反報告)
松々先輩(プロフ) - のんさん» ありがとうございます!頑張ります (2022年8月7日 0時) (レス) id: a6e4fce6a1 (このIDを非表示/違反報告)
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