久方ぶりの ページ26
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長いホイッスルの音が、盛り上がる会場に響き渡る。試合終了の合図を告げる審判の笛の音だ。
｢すごい試合だったわね｣
｢やっぱりロシアは……フロイ達の強さは本物です｣
試合の余韻に浸り、胸を撫で下ろすAの隣で、一星は得点板を見つめる。結果は、ロシアの圧勝だった。アルゼンチンは手も足もでないまま四対０という得点差を見せつけられ、試合の幕を下ろした。
｢帰ったらさっそく作戦を練らないと｣
｢俺も、ロシアの戦術データを更新し直さないと｣
｢そうと決まれば、帰ったらさっそく分析ね｣
｢はい！｣
試合観戦も終わり、席から立ち上がった二人はそのまま押し寄せる観客達の波にのまれながら、会場の出口へと繋がる廊下を歩いていく。決勝進出を賭けた試合だけに客入りはかなりのもので、息苦しくも感じる。
｢Aさん、あの｣
｢なに？｣
突然一星が立ち止まる。通行人の邪魔にならないように端へ寄るものだから、Aもつられて壁際に寄って足を止め、一星に振り返る。
｢その……はぐれると大変ですから、手｣
｢手？｣
問返せば、こくこくと伏し目がちに頷く一星にAは疑問符を浮かべる。ぷしゅー…と音が立ちそうなほど真っ赤になっている顔に何かを察したのか、小さく微笑むとAは控えめに差し出された手を掴む。
｢こうして繋ぐの、なんだか久しぶりだね｣
｢そ……そうですね｣
｢もしかして光くん、緊張してる？｣
図星なのか、ひゅ…っと息を吸い込むような音が聞こえると同時に、肩が大袈裟なまでに跳ね上がる。ぎこちない動きで手が握り返されると、Aは小さな笑みを口元に浮かべた。
｢は、はい。あの……兄ちゃんとして接していた頃はなんともなかったんですけど、その……Aさんが一星光としての俺を見てくれてると思うと、動悸が｣
｢そ……そんなに？｣
空いた手のひらを胸に当て、深呼吸を繰り返す一星。一方のAは、苦笑しながら可愛らしい後輩の姿を見つめている。元々恋には奥手な光。兄の時のように、強引に……とまではいかないようだ。
｢も、もう大丈夫です！｣
｢歩ける？｣
｢歩けます！！｣
｢そ…そう｣
下から顔色を伺うようにAが覗き込むと、すぐに顔を逸らされてしまう。緊張して強ばった表情は抜けきれてはいなかったが、裏返った声で返事をして歩き出した一星に引かれて、Aも肩を並べて歩く。
(光くん)
(は、はい！)
(ありがとう)
(……！いえ、俺がしたかっただけですから)
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作者名：小雪
| 作成日時：2019年10月15日 21時
