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酷似 ページ6



明日人から目を背け、再びAに向かい合った一星は、「ねっ?」と首を横に倒して反射的に微笑んでみせる。Aもそれに応えようと笑ってみるが、その顔はどこかぎこちなく、引き攣っていた。

「……」

無理をして笑う彼女に、一星は薄く開いていた唇を閉じ、はっ。と息を呑む。しかしすぐにまた、結んだままの唇にかすかな笑みを浮かばせる。

「ほら、行きましょうAさん!」

「あっ…」

「試合はまだ終わってませんよ!」

元気の無いAの垂れ下がる腕を、そっと掴む。あくまでそっと、控えめに。そして走り出す。フィールドで手を掴んで選手同士が走るなど、いくら観客が試合に夢中とは言え、目立たないわけがない。

「ひ、光くん!自分で走れるから!」

「……」

「ちょっと聞いてるの?光くん!」

先を行く一星に声を投げかけても、反応はない。

いつしか腕を掴んで走る二人の横へ、蛇のようにイヤらしく目を細めた剛陣が「お熱いこったな〜」冷やかしながらやってくると、Aの顔が赤く染まる。

「だって先輩、足遅いしトロくさいじゃないですか。おまけに運動神経も並々でドジでマヌケで……俺が引っ張ってあげないとロクに走れもしませんし」

「だ、誰が!私はドジでもマヌケでもな…、」

Aはそこで、口を噤んだ。ハッとして反射的に顔を上げる。違和感を覚えたのだ。普段の光の口からは決して聞くことができない憎まれ口。

鼻で笑った後にする発音や、小憎たらしいその台詞は、長らく聞いていなかった人物に酷似していた。

「(そんなわけない。きっと、聞き間違いよ。あの二人は兄弟なんだから、似てて当然。今のだって、きっと光くんが私に気を使って、励ましてくれ__)」

髪に隠れて見えなかった横顔が風に吹かれた時、一瞬、別の誰かの顔が垣間見えた。

「みつ……っ」

一星光とは違う、的のような形状の瞳に合わせて映る、長く太い切れ長の眉が見えた時、Aの瞳は大きく見開かれる。

「Aさん?」

「!!」

「どうかしたんですか?」

だがそれはほんの一瞬で、風が止み、また次に吹いた時には紺色のうねり髪、黒と水色の二重の瞳の中の上に丸いハイライトがある見慣れた少年の姿に戻っていた。

今はただ、その顔で顔色の悪いAの様子を、心配そうに窺っている。


(何か言いかけてたみたいですけど…)
(光くん、今私にトロくさいって言わなかった?)
(ええっ!?そんなこと言うわけないじゃないですか!)
(……そう、だよね)

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設定タグ:イナズマイレブン , 吉良ヒロト , 灰崎凌兵   
作品ジャンル:アニメ
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作者名:小雪 | 作成日時:2019年9月18日 14時

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