勇者 ページ37
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からん、ころん。
店の扉が開かれると、ベルが店内に鳴り響く。それに合わせて、レジにいた店員から「いらっしゃいませ!」という快活な挨拶が二人の耳にも届いた。
「灰崎くん、どこだろう」
「マジでここ入るのかよ……」
「文句言ってないで、あんたも探すの手伝って」
見渡す限りクマぞう、クマぞう、クマぞう。店内の至る所に様々なグッズが商品として売られている。
可愛らしいBGMが流れる店内は、クマぞうファンならば喜ばしいところではあるが、それ以外の者にとっては地獄と言えるだろう。ヒロトは後者である。げんなりとした顔で靴音を踏み鳴らしながら歩く。
「あっ、いたいた!灰崎くん!」
「それにしても灰崎のヤツ、よく一人でこんな店入れるよな。ある意味勇者だぜ」
身長が高いため、彼の姿はよく目立つ。少し背伸びをすれば戸棚から見えた灰色の髪。掴んでいた手は店に入るとヒロトに振り払われた。
Aが先頭を歩けば、ヒロトは仕方なくその後ろに続く。ファンシーな店内の雰囲気に居心地が悪そうだ。
「遅せぇよ」
「ごめん、ちょっと時間かかっちゃって」
Aが目尻を下げて申し訳なさそうに謝ると、灰崎は何の文句も浮かばなくなる。彼女の後ろでヒロトが不機嫌で不服そうな顔をしているが、灰崎は見て見ぬふりをして、再び棚に目を向けた。
「で、なに?そのでかいぬいぐるみ」
「あ?見りゃわかんだろ、クマぞうだ」
「いや。そうだけどそういう意味じゃなくて」
Aが人差し指を向けた先にあるのは、灰崎の腕に抱き抱えられたクマぞうのぬいぐるみ。それもかなりの大きさだ。それを後生大事に抱えているものだから、ヒロトは引き攣った顔で訊ねた。
「まさかお前それ、買うなんていわないよな?」
しかし灰崎はその問いかけには答えず、抱き抱えているクマぞうに懐かしむような目を細める。
「茜が昔、欲しがってたのを思い出したんだよ。アイツ、ぬいぐるみの方が好きらしいからな」
「茜?誰だよそいつ」
なんでも昔一度販売したきり、訳あって再入荷もなく、マニアの間では入手困難とも言われている代物らしい。それがなぜロシアで販売されているのか疑問ではあるが、Aにはどうでもよかった。
「へー。ふーん、そう」
彼女は冷めきった眼差しで、灰崎を見つめていた。
「なあ、茜って誰だよ」事情を知らないヒロトが、白けた表情でいるAに何度もしつこく訊ねる。しかしAはその問いに答えようとしない。
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作者名:小雪 | 作成日時:2019年9月18日 14時