本音 ページ30
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「お母さんが……前にね。買ってきてくれたの」
頬を人差し指で掻くA。灰崎から受ける視線を感じて、はにかみながら俯いた途端、Aの顔はみるみるうちに真っ赤に燃えるように上気していく。
「やっぱり、似合わない?」
「別に。悪くはねぇよ」
不安げな表情で見上げてくるAから目を逸らした灰崎は、被っていた帽子の鍔を下ろすとぶっきらぼうにもそう告げた。
「そ、そっか」
その一言が聞けただけで、Aの心は充分に満たされる。キャスケットで隠した口元は、結び目が解けただらしない紐のように緩んでいた。
「それより、アイツをどうにかしろよ」
「え?」
そう言って、正面。つまり、Aの後ろを指をさす灰崎。全く身に覚えのない言葉を告げられたAは、一呼吸を置くと体を大きく翻す。
「何よヒロト」
「……」
「あ…あんまり人のこと、ジロジロ見ないでよね」
慣れない服にただでさえ恥ずかしいと言うのに、ヒロトは穴のあくような瞳で彼女を見つめている。その顔は、薄紅の朝顔のように赤らんでいた。
「どうせ似合わないとか言うんでしょ?知ってるからね。あんたがそんな気の利いた言葉言えるわけ……」
「かわいい」
恍惚とした瞳で、押しとどめていたヒロトの心の声が漏れるとAの思考回路が停止した。確かに聞こえた「かわいい」という四文字の言葉。恥ずかしがるというよりも、今の彼女はまるっきり放心状態だ。
「は、?」
「え…」
なんとも言えない微妙な空気が流れ始める。
灰崎から痛いほどの視線を送られたヒロトは、自分の放った言葉を徐々に理解し始める。赤らんだ顔が、耳の付け根にまで影響を及ぼした。
「いっ…いいいい、今のなしだ!!あれだ、あれ!馬子にも衣装って言いたかったんだ!!」
「……」
身振り手振りとはまさにこのこと。慌てた様子で、必死に弁解しようとするヒロトはそのことに必死で、すん…と真顔になったAに気づかない。
「どうしようないお前も少しは気飾ればちょっとはマシになることに驚いたんだよ!!かわいいとか言ってねぇし思ったことも一度もねぇよこのブ…っ!?」
キャスケットが、ヒロトの顔を直撃。
投げた本人は言わずもがな、Aである。かわいい、と言われただけで何故こうも散々と言われなければならないのか。額にいくつもの怒筋を浮かび上がらせAは、腹を立てて一人で先に歩いて行く。
(あの女マジで許さねぇ…)
(今のはどう見ても自業自得だろ)
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作者名:小雪 | 作成日時:2019年9月18日 14時