悩み ページ26
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ミーティングが始まるまでの間、析谷から自由時間を設けられた選手達は有意義に過ごす。
だが、集合時間よりも早く、ミーティングルームで待機している者達もいた。ヒロトと基山だ。移動をするのが面倒だというヒロトの意見により、二人はフリースペースで寛いでいる。
ヒロトは耳にイヤホンをさして、音楽鑑賞中だ。一方のタツヤは、机に肩肘をついて本を読んでいた。
｢お前が恋愛関連の曲を聴くなんて珍しいな｣
ふと、読んでいた本から目を逸らした基山。机に置かれていたスマホの液晶画面からたまたま見えた音楽のタイトルを目にした途端、口元が綻んだ。
｢勝手に覗いてんじゃねーよ｣
クスッと微笑む基山に対し、不快感を覚えたヒロトはイヤホンを片耳だけ外すと、露骨に顔を顰める。
｢何を聴こうと俺の勝手だろ｣と突き放すように発言をすれば｢それもそうだ｣と、基山はあっさりと納得をして、再び本を読むことに集中した。
｢日暮さんか？｣
｢……｣
的を得るような発言に、一瞬眉が反応するも、ヒロトは何も言わずに顔を背ける。すると基山が｢へぇ｣と意外そうな声を出すものだから、ヒロトは｢なんだよ｣と罰が悪そうに返した。
｢前までのお前は日暮さんの名前を出しただけでもおもしろいくらい動揺してたのにな｣
｢おもしろいは余計だ｣
とてもじゃないが、音楽を聴いていられる気分じゃない。少なくとも基山がいる前では。ヒロトはスマホの電源を落とすと、何もない壁を見る。
｢このままでいいわけねーんだよ｣
独り言を呟くようにボヤく。その口調は普段のヒロトからは想像もつかないものだった。今のヒロトにはそういうことが持つ、淋しさがしみ込んでいる。
｢いいわけ、ねーんだ｣
思い悩んだ声で呟いたのを最後に、机の上で組んだ腕の中に自分の顔を伏せた。
悄然として項垂れるヒロトを気の毒に思ったのか、本を閉じた基山が静かに言い放つ。
｢ゴッドストライカーを名乗るお前が、女の子に頭を悩ませる日がくるなんてな｣
席を移動して隣に腰掛けた基山の気配に気づいたヒロトは、伏せていた顔を上げる。そして横目で基山を一瞥してから｢うるせー｣と放ち、睨みつけた。
｢で？その曲から何か学べたのか？｣
｢別に、そんなつもりで聞いてねーよ｣
なんでもヒロト曰く、好きなアーティストの新曲が、たまたま恋愛模様を描いた歌詞だった…というらしい。真相は定かではないが、そういうことにしておいてあげよう……基山は心の中で微笑んだ。
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作者名：小雪
| 作成日時：2019年9月18日 14時
