良きライバル ページ34
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「ありがとう、ヒロト」照れくさそうな顔でそっぽを向くヒロトにお礼を告げたAは、貰ったばかりのマスコットを大事そうに両手に収めると、包み込むように握ってからポケットの中にしまった。
「スタンディングメンバーを発表するから全員監督の前に集まって!」
手を叩く析谷の集合を合図に選手達は導かれるように、ベンチの前に立つ監督と析谷の前に整列する。スタンディングメンバーの発表はいつまで経っても慣れず、鼓動が騒がしくなる。
「まずはFW、ヒロト、照美。このツートップだ。そしてMF。明日人、悠馬、明王、光、貴利名…」
そこまで言い終えると、今までタブレットに視線を落としていた析谷がふとAを一瞥した。その一連の行動に彼女は小首を傾げる。
「?」
だがすぐにタブレットに目を戻し、何事もない素振りを見せた析谷。もしかして……そんな儚い希望を抱いてしまうが現実はそう簡単に夢を見せてはくれない。
「DF、昇、タツヤ、貴志。最後にGK、守。以上が今日のスタンディングメンバーだ」
タブレットを脇に抱え、周りを見回しながら言った析谷の口から発表されたメンバー。スペインに続いてAの名前は一言も上がらずに終わってしまった。
「……(まだまだ精進が足りないってこと、析谷さんに見抜かれてるのかな……。それに灰崎くんもスペイン戦での疲労でベンチだし……どうしよう)」
灰崎に関してはスペイン戦のこともあり、何となくそんな気がしていたA。
はぁ……と小さなため息をついて肩を落とす。そして俯きがちにヒロトと話す灰崎の姿を一瞥した。
「凌兵は次のロシア戦まで体力を温存してもらうからね。今回の試合は見送りだ」
今まで一度も控えに回ったことがない
灰崎は析谷から涼しい顔で苦言を呈され
少し気に食わなさそうに舌を鳴らす。
「そう気を落とすなよ、俺が決めてやる」
「調子乗ってヘマすんじゃねえぞ」
「誰にもの言ってんだよ。当たり前だ、ばーか」
不服そうな灰崎の肩を組んだヒロトが宥めるように言えば、彼はそれを鬱陶しそうに払う。代わりに手の甲をヒロトの前に差し出せばヒロトもまた、灰崎に手の甲を向けて、タッチを交わし合った。
「(何だかんだ言って仲いいな、灰崎くんとヒロト。最初はどうなることかと思ったけど)」
アジア予選では衝突も多かった灰崎とヒロト。しかし、今まで数々の修羅場を乗り越えてきたことで今ではAから見ても良きライバルとなっていた。
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作者名:小雪 | 作成日時:2019年5月15日 0時